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空出張は犯罪?具体的な手口や不正への対処法・予防策を解説

空出張は犯罪?具体的な手口や不正への対処法・予防策を解説

空出張(カラ出張)は、実際には発生していない交通費や宿泊費などをでっちあげ、不正に金銭を手に入れる悪質な手口です。ときに損害賠償請求や刑事罰を争うことにつながります。会社として事前に防ぐためには、空出張に関する正しい知識とカラクリを理解することが大切です。

当記事では「空出張って一体何?」という基礎知識から具体的な手口、さらには対処法・予防策について解説します。

ぜひ当記事で空出張を理解し、今後起こるかもしれない不正にも、冷静に対処できるようになってくださいね。

空出張とは?現状の問題点や下される処分

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空出張(カラ出張)とは、名称に「空」と付いているように「架空の交通費や宿泊費などの出張経費を会社に申請し不正に金銭を受け取ること」です。

たとえば出張先で「使っていないけど電車代を申請しよう」「3,000円のホテルだったけど7,000円のホテルに泊まったことにした」といった行いは、すべて不正です。もし社員の空出張を発見したときには、該当の社員への懲戒解雇などの処分、最悪は刑事罰の適用を検討しなければなりません。

会社員の立場でも簡単にできることから、管理側も把握しきれない不正が水面下で進んでいる可能性もあります。以下より、空出張の関する問題点の詳細を見ていきましょう。

 

空出張がバレにくい理由

空出張は社内ではなく社外、それも出張先という離れた場所で行われます。そのため上司や経理、総務の担当者が気づかないことも多いです。

また会社と出張者の間で信頼関係が強いほど、「この人なら不正はしないだろう」と見逃してしまうパターンがあります。管理側としては私情を挟まず、客観的な根拠に基づいたチェックが必要です。

 

データで見る出張の旅費精算に関する会社の課題

一般社団法人日本CFO協会の「出張費用マネジメントの実態調査における課題と対応策」を見ると、出張に関して以下の問題点が浮かび上がっています。

  • 旅費規定を「十分に理解していない」と答えたのが30%
  • 旅費規定の違反について「上司のチェックが不十分・ほとんどチェックしていない」と答えたのが41%
  • 旅費規定の違反に対し「まったく発生していない」と答えたのがわずか25%

 

出張の旅費精算に対する無理解やチェック体制の甘さだけでなく、不正の温床になっていることを示唆する結果となっていました。

また株式会社ラクスによる調査でも、出張申請を含む経費申請について、次の結果が出ています。

  • 企業規模が大きいほど「不正申請の見逃しへの不安」が増加傾向
  • 「経費申請の金額を必ずチェックする」と答えた企業が25.5~33.2%に留まる

 

顕在的・潜在的にも、出張申請の問題が発生していると考えられます。空出張を防ぐには、上記の問題点を参考につつ、体制見直しが必要になるでしょう。上司や管理側も、責任を持ってチェックしなければなりません。

 

空出張にて下される可能性がある処分や刑罰

空出張を含む経費申請の不正に対しては重い処分が下ります。会社の利益を損ねたり信頼を失ったりだけでなく、法律違反となる可能性が高いからです。

以下では、「空出張が発覚したときに適用される処分や刑事罰」について解説します。

 

空出張の処罰:減給や出勤停止

比較的金額が安かったり悪質さが認められなかったりするときは、減給や出勤停止処分で済ませることも可能です。一定の罰を与え、深い反省を促します。

 

空出張の処罰:懲戒解雇処分

空出張に対する処分は、会社としてはもっとも重い懲戒解雇、いわゆるクビになる可能性が高いです。本来は「就業規則の規定違反」や「解雇の合理的な理由がある」などの事実が必要ですが、空出張は十分な理由となるでしょう。

懲戒解雇になると、退職までの猶予期間や退職金はありません。ケース次第では解雇予告手当もなしです。次の就職先を探すときに、応募先にもマイナスイメージを植え付けることになります。

 

空出張の処罰:業務上横領罪

経費分のお金を私的な目的で横領したときは、刑法第253条の「業務上横領罪」にあたります。10年以下の懲役刑です。

(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

引用:刑法第253条

 

空出張の処罰:私文書偽造等罪

領収書を改ざんしたり架空の領収書を作成したりなどの不正は、刑法第159条の「私文書偽造等罪」にあたります。懲役3ヵ月以上5年以下の懲役刑です。

(私文書偽造等)
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

出典:刑法第159条

 

空出張の処罰:詐欺罪

不正の中で「会社を騙す行為」が認められたときは、刑法246条の「詐欺罪」が適用される可能性があります。10年以下の懲役です。

また不正に荷担した人は「詐欺幇助」として、刑法第62条の「正犯を幇助(助けた人)」として処分されるかもしれません。

人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

出典:刑法246条

 

空出張でよくある5つの手口とは

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空出張には、大きく分けて5つの手口があります。ここからは空出張のよくある具体的な手口5つと、過去に実際にニュースになった悪質な空出張の事例をご紹介します。

 

空出張の手口:架空の出張や参加していないセミナーの出張費を請求する

架空の出張を報告する、セミナーに参加したと嘘を付いて交通費や参加費のみを受け取るなど、出張そのものをでっち上げる不正です。

出張の偽造は管理職や役員レベル以外では困難ですが、講義やセミナーへの嘘の参加報告は社員でも簡単にできてしまいます。

 

空出張の手口:交通費を水増しで申請する

電車やバスなどの交通機関は領収書をもらうのが手間になるため、領収書の提出を免除する会社は少なくありません。その穴を利用して、交通費を水増しで請求するパターンです。

  • 申請した交通機関より安いところを使って差額を受給
  • 新幹線や飛行機のチケットを払い戻し別ルートで向かう

証拠として残らないことが多いため、上司や担当者も気づかない危険性があります。またクレジットカードなどに購入歴だけ残し、あとでチケットを払い戻すという悪質な方法にも注意が必要です。

 

空出張の手口:宿泊先の変更を変更する

実際に泊まったホテルの宿泊代よりも水増しを行い、差額を着服する方法です。

 

空出張の手口:接待交際費関係の横領や水増し

接待交際費とは、法人による取引先や仕入先、その他事業に関係ある人への接待、慰安、贈答などにかかる経費です。プライベートな食費や接待費は経費申請できませんが、ここで会社を騙して不正受給します。

  • 仕事に関係のない昼飯代や夜飯代を請求する
  • 取引先の人数を水増しする
  • 白紙の領収書を受け取り自分で書き込む

ときに取引相手と共謀して、誤魔化すケースも存在します。

 

気をつけたいのは、交際接待費は税務調査(税務職員による税金の調査)の対象になりやすいという点です。もし経常的に不正が行われ、その事実が税務調査で発覚したときは、過少申告加算税や重加算税などの追徴課税が会社にも課せられるかもしれません。

もし追徴課税となれば、会社のブランドイメージが崩れ、社会的信用を失います。「取引の打ち切り」や「金融機関からの融資の見直し」などの不利益が考えられるため、管理部門はとくに注意が必要になります。

 

過去本当にあった空出張関係の犯罪まとめ

過去には空出張による横領や詐欺、不正計上で事件となった事例が、多数報じられています。過去の事例をあらかじめ確認しておき、類似不正が発生しないよう注意しておくことをおすすめします。

 

大手建設会社による空出張申請

外国に出張したかのように見せかけ、計13回分の出張旅費を約890万円だまし取った事件です。実行者は詐欺罪として逮捕されました。また懲戒解雇処分となっています。

 

県議員による空出張

県議員が地元の建設会社の工事現場に視察したと嘘をつき、44回分の交通費や宿泊費をだまし取っていた事件です。

当人は約277万円を県に返還し、議員を辞職しています。

 

有名大学の教授による出張費の不正計上

助教授が約150回の空出張を繰り返し、研究費や交通費、宿泊費など総額1,000万円以上不正に受給していた事件です。大学は助教授を懲戒解雇処分したのち、刑事告訴する方針を固めています。

大学絡みの他の事件では、学生に空出張させて不正計上するパターンもありました。

 

もし社員の空出張に気づいたときの対処法とは

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もし社員の空出張を発見したときは、速やかに調査・報告をして処分を下します。放っておけば状況が悪化したり、他の社員に波及する可能性があったりなどのリスクが存在するためです。

以下では「もし社員の空出張に気づいたときにどうすればよいのか」について、具体的な対処法をご紹介します。

事前に調査して証拠を集める

もし疑わしい社員がいたとしても、「不正をしているに違いない!」と憶測で指摘するのは悪手です。疑われた時点ですぐに証拠を隠滅される可能性があるためです。また、もし冤罪だった場合は、社員から会社側へ名誉毀損の訴えが起こることも考えられます。

追求を始める前に、事実確認や裏取りによって客観的事実を集めておく必要があります。具体的には次のとおりです。

  • 交通機関のチケット購入履歴
  • 使用済みの切手やホテルの宿泊履歴の有無
  • 領収書の具体的な数値や内容
  • 取引先への事実関係のヒアリング

口頭ベースの確認ではなく、明確な数値や事実が記載されたものでの判断が重要になります。

もし社員が自白したときは、後でトラブルにならないよう、自白内容を書面で記載し本人に署名させて記録します。

就業規則や法律に則り厳格に処分する

空出張による不正を社員が認めたときは、就業規則や法律に則り厳格に処分します。横領額や不正していた期間などを加味して悪質と認められるときは、民事訴訟や刑事事件に発展するかもしれません。

ただし、該当社員が全額返金に応じたり深い反省が見られたりする場合は、情状酌量の措置も考えておくのもありです。

スムーズかつ適切に進めるためにも、弁護士などの専門家の知恵を借りることをおすすめします。

 

空出張を防ぐには仕組みづくりが大切!予防策について

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社員が「そもそも空出張なんてとてもできない……!」という仕組みをあらかじめ作っておけば、さまざまな不正の発生を0に近づけられます。ここからは空出張の予防策についてのご提案を紹介します。

 

出張旅費規定をしっかり制定する

出張旅費規程とは、会社での旅費の取り扱いについて定めた規定です。役職によって支給する経費の上限を決めたり、「どのように精算や日当支給を行うか」のルールを定めたりします。

決めておくことで、不正な水増しの防止や出張旅費の節約になります。また上司や経理担当もスムーズにチェック作業ができるため、疲労や作業量過多が要因となる不正の見逃し防止にもつながるでしょう。

 

出張の申請に関するルールを決める

出張の申請に関するルールをあらかじめ決めておくことで、空出張の発生を予防します。出張旅費規程と違い、申請手続きそのもののルールです。たとえば次の方法が考えられます。

  • ICカードの履歴や領収書の提出を義務付ける
  • 接待交際費は事前申請制にしておく
  • 法人専用のホテル予約を使わせて利用状況を把握する など

「そもそも不正ができない体制を整えておく」こともが大切です。

 

チェック体制をしっかり整える

万が一空出張が発生したときに、その不正を速やかに見つけられる体制を整えることも予防につながります。

  • 旅費申請に関するルールを社員に覚え込ませる
  • 申請の間に承認者を挟んでダブルチェック制度にする
  • 出張手配・管理サービスを利用する

不正を完全に0にするというのは、現実的に難しいかもしれません。だからこそ、行われた不正にすぐに気づくことが、空出張の被害を最小限に押さえるポイントになります。

 

空出張を防いで健全な出張体制を整えよう

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空出張は一般社員でも簡単に行える不正であることから、会社の目をすり抜けることも少なくありません。しっかりしたチェック体制と申請のルール化が大切です。今回のポイントは次のとおりです。

  • 空出張は正式な処分の対象であること
  • 交通費や宿泊費などの不正が発生しやすいポイントを押さえておくこと
  • 不正を発見したときは厳格に処分すること
  • 空出張が起こらないような体制を整えておくこと

社員一同が正しい知識と倫理観を共有し、空出張が発生しないような会社を目指していきましょう。

企業の教科書
増山 晋哉
記事の監修者 増山 晋哉
弁護士法人 きわみ事務所 代表弁護士

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