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育児休業給付金と支給要件~育児休暇との違いはどこにある?

育児休業給付金と支給要件~育児休暇との違いはどこにある?

共働き世帯がそうではない世帯の2倍程度にまで増えた今、「仕事と育児を両立していくこと」が強く求められるようになりました。そんななかで注目を浴びているのが「育児休業給付金」です。

育児休業給付金の支給要件を解説していきます。

共働き世帯が3分の2程度を増える現在、仕事と折り合いをつけながら育児をしていくことが当たり前となりつつあります。

しかし安心して育児に向き合うためには、「働き方が制限されることによって起きる収入減」に向き合わなければなりません。そのために、「育児休業給付金」があります。

ここでは、「育児休業給付金とは何か」「育児休業と育児休暇の違い」「育児休業給付金の支給要件」について解説していきます。

育児休業は法律に定められた育児を行うための休業

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「育児休業」とは、法律に定められた育児の支援制度をいいます。そして育児休業給付金とは従業員が育児休業を取得する際に、申請をすることで給付されるお金をいいます。

「育児休業」は、「育児・介護休業法」によってその内容が定められています。これは、「子どもが1歳(条件により2歳まで延長可)に達するまでの間、申請すれば育児休業がとれる」という制度です。これに関しては国の定める法律であるため、企業側はこれを断ることはできません。

また、次のような特別な規定が設けられていることにも留意しましょう。

  • 3歳になるまでは短時間勤務(原則として1日に6時間まで)で勤務できる
  • 小学校に入学するまでは年に5日までは看護休暇がとれる
  • 時間外労働・深夜業・残業が制限される
  • 転勤についても配慮される

 

育児休業の取り決めがあるため、「働き方」にも特別な配慮をしなければなりません。
なお従業員側は、条件を満たした状態で申請することによって「育児休業給付金」が支給されることも忘れてはいけません。詳しくは後述しますが、これは育児休業開始時の賃金の67パーセント(約3分の2)が支給されるという制度です。

2020年の10月には、「社員に育児休業をとらせるように推奨すること」が義務付けるように検討する」と厚生労働省が発表したため、企業側も今から取り組むとよいでしょう。

 

育児休業給付金の内容と支給要件

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育児休業給付金は、育児を理由として休業しなければならない家庭(人)に対して、その生活を支援し、減った収入を補うために組まれた制度です。

 

育児休業給付金を利用すれば、賃金の67パーセントまでの収入が保証される

育児休業給付金の計算式は、以下の方法で求められます。

休業開始時賃金日額×支給日数×67%(ただし、育児休業の開始から6か月経過後は50%

引用:厚生労働省「Q&A~育児休業給付~」より

 

つまり、従業員は育児休業取得時は働いていたときの3分の2程度の収入が保証されるというわけです。育児休業が半年以上に及んだ場合でも半額は入ってくることになります。ただし、育児休業にも働いていた場合は、この金額が減額される可能性もあります。

これは子どもが1歳になった日の前々日まで支給されます。また、1歳になる前に配偶者が死亡したり障害やけがを負ったり、配偶者と離婚したりした場合は、1歳6か月まで支給期間が延期されます(1歳6か月になる前に同じような状況に陥ったときは、2歳まで延長されます)。

もうひとつ重要なのが、「育児休業給付金は課税対象外であり、社会保険料も免除される」という点です。

育児休業給付を受けても、これには所得税などの税金はかかりません。また、育児休業給付金を受けている間は、健康保険や厚生年金の納付も免除されます。

 

育児休業給付金の支給要件についても把握しておこう

育児休業給付金には、「支給要件」があります。ただこれはそれほど厳しいものではありません。

「育児休業を開始する前の2年の間に、12か月以上被保険者期間があること」が条件だからです。

このため、従業員として働いていた期間がある程度長い人ならば、問題なくクリアできるでしょう。また、たとえ12か月に満たない場合であっても、「第一子の育児にあたっていた」「病気をしていた」などの事情があった場合は、これも考慮されます。会社側はこれを意識して、従業員の待遇を考えなければなりません。

 

現在は「家族で育児をしていくこと」「男女間で雇用を均等にしよう」とする考え方のが浸透していっています。上で述べた「今後は、男性従業員にも育児休業をとらせるように推奨することを会社側の義務とする」と厚生労働省が考えていることを踏まえれば、今後はますますこの考え方が浸透していくと思われます。

 

男性も育児休業給付金の対象になる

このような社会的情勢を踏まえ、男性従業員が育児休業を申請した場合、会社側はこれを受け入れなければなりません。また、男性従業員も女性従業員と同じように育児休業給付金の対象にもなります。

男性従業員から申請された場合、子どもが生まれたその日から育児休業を許可しなければなりません。また従業員側はこのタイミングで、育児休業給付金を受け取ることができます。

 

また、「夫婦2人とも育児休業を取得したい」と申請された場合は会社側はこれを断ることができませんし、従業員側は男女双方とも育児休業給付金を受け取ることができます。

加えて「もともと片方が一馬力で働いており、片方が専業主婦(専業主夫)であった」という場合でも、働いている方に対して「妻(夫)が専業主婦(専業主夫)だから、育児休業はいらないだろう」と突っぱねることはできません。

 

育児休業給付金が受け取れない! その理由と異議申し立て

育児休業給付金は従業員側にとって非常にメリットの多い制度ですが、「出産さえすればだれでも受け取れるお金」ではありません。下記のような場合は、育児休業給付金の対象となりません。

【育児休業給付金の対象外となる場合】

  • 育児休業終了後に会社を辞める予定の従業員である
  • 育児休業中でも、育児休業前と比べて80パーセント以上の収入が出ると規約に定めている
  • 雇用保険を支払っていない従業員である
  • 従業員が育児休業を取らなかった

 

それぞれ解説していきます。

育児休業給付金は、「育児休業が終わったら職場に戻る人のための給付金」です。そのため、「妊娠~出産をしたので、そのまま会社を辞めて育児に専念します」という意向を示している人の場合は、育児休業給付金の支給対象外となります。

「育児休業中だが、今までの給与の80パーセント以上の金額を会社側から支払われる」という場合は、育児休業給付金の対象とはなりません。また、80パーセントに満たない場合でも、収入が多ければ育児休業給付金の金額が減らされることもあります。

つまり、「わが社はもともと妊娠~出産~子育てに対して手厚い支援を行っていて、全額出している」という場合は、その「もともとの支援」だけ問題はないということです。

雇用保険を払っていない従業員に対しては、当然育児休業給付金も出されません。

 

育児休業をとらなかった人は、当然育児休業給付金の対象外となります。ただこれは、意外と見落としやすい点です。

女性の場合、子どもを生むと産後休業をとることが義務付けられています。これは、「出産後2か月間は働いてはいけない(特例では1か月半に短縮される)」とする期間です。産後休業が終わってすぐに職場に復帰した場合は、「育児休業をとった」とはみなされません。

産後休業と育児休業を同じものだと勘違いしていると、「産後休業が終わってすぐに働き始めても育児休業給付金が出る」「産後休業期間中にしか育児休業給付金が支給されない」と誤解してしまうので注意が必要です。従業員側が勘違いしていそうならば、一言声をかけるとよいでしょう。

 

育児休業と育児休暇の違いについて

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さて、ここまで「育児休業(育児休業給付金)」とその支給要件についてみてきましたが、「育児休業」と「育児休暇」の違いがいまいちわからない……という人も多いのではないでしょうか。
育児休業と育児休暇は、似ているようでまったく異なるものです。

育児休業とは、上でも述べたように、法律によって定められたものです。そのため育児休業制度の持つ力は非常に大きく、すべての会社はこの育児休業制度を守らなければなりません。また、育児休業を取得する人間に支給される金額も、(状況などによって多少異なることはあるものの)決められています。
育児をするために休みをとる人(家庭)の収入の低下を補い、子育てをしやすくするために国が定めた制度が「育児休業」なのです。

 

対して、「育児休暇」は法律に定められたものではありません。会社側が独自に定めるものであり、会社ごとに大きな違いが生じるものです。基本的には育児休暇は無給としているところが多くみられますが、育児休暇でも、8か月間ならば給与を100パーセント支給するとしているところもあります。

また、「職場に復帰した後でも、育児中はリモートワークやフレックス勤務が選べる」「ベビーシッター補助制度を使える」などのようにしている会社もあるでしょう。

【育児休業と育児休暇のちがい】
  • 育児休業:法律によって定められた休業制度
  • 育児休暇:会社が独自に定めた休暇制度

 

育児休暇にまつわる申請は、ある程度規模の大きい会社ならば受ける頻度も高いかと思われますので、「自社がどのような姿勢をとっているのか」はしっかりと確認しておきましょう。

基本的には一律で決められている「育児休業」に対し、各会社が設けている「育児休暇」はそれぞれの特色が出ます。上で挙げたように「育児休暇中に会社側から支給される金額」によって育児休業給付金が受けられなくなるなどの状況はありますが、それでも、育児休暇中の会社側の対応方法は「従業員の働きやすさ」に大きく関わってくる部分だといえます。

現在は結婚~妊娠~出産を経ても働き続けたい・働かなければならないと考える人が多くいます。就活生が見るポイントのひとつであり、転職希望者が見る点でもあります。また企業イメージにも関わってくるところなので、ここを充実させることは会社の利益にも繋がります。

 

育児休業などを活用して働きやすい職場へ

「育児休業」と「育児休業給付金」は、育児に取り組む人にとって非常に有意義な制度だといえます。子育てをしていく過程で休みをとりたい・休みをとらなければならない状況になったときに減るであろう収入を、育児休業給付金は補ってくれるからです。

また、会社側にとっては「育児休業申請」は断ることのできない制度だということです。法律で定められたことだという認識を強く持つようにしてください。

ただし育児休業給付金は、会社側が打ち出す育児休暇制度の内容によっては両立できないものです。従業員が勘違いしているのであれば指摘してあげましょう。

なお、育児休暇を充実させることは、企業のイメージアップなどにも繋がります。就活生や転職希望者を取り込むための要素ともなりますから、育児休業とあわせて考えていきましょう。

企業の教科書
村宮 淳子
記事の監修者 村宮 淳子
社会保険労務士法人 きわみ事務所 所属社会保険労務士

2021年5月に登録したばかりの新人社労士です。
弁護士としては、就業規則作成を中心に、労働法分野に携わってきました。
また、大学ではこれから社会へ出ていく学生達に向けて、労働法に関する講義をしています。
今後は、社会保険労務士の専門分野である労働法、社会保険関係手続等や企業の労務管理について研鑽を深めるとともに、企業の担当者が気軽に相談できる社労士を目指したいと思います。

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