人事・労務

ワーケーション導入のために検討すべき9のポイント【管理部必見】

ワーケーション導入のために検討すべき9のポイント【管理部必見】

ワーケーションの導入が、昨今の働き方改革の一環で注目されています。

従業員をリゾート地などで働かせることでリフレッシュによる生産性向上や長期就業が狙える一方で、制度導入について不安や不明点がある管理部の方もいるのではないでしょうか?

この記事ではワーケーション導入に関する労務や税務の問題を洗い出し、適切なアプローチについてご案内しています。ワーケーション導入の参考になれば幸いです。

ワーケーションとは

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ワーケーションとはワーク(work)とバケーション(vacation)を合わせた言葉で、リゾート地などで観光や休暇を楽しみつつ、リモートで働く制度を指します。

新型コロナウイルスの影響でリモートワークが一般化しつつあるなか、新しい働きかたとして注目されています。

自宅などで行うリモートワークとは異なり、就業場所がホテルなどのリゾート地であるほか、一日の就労時間はフルタイムではなく、0から数時間程度となることもあります。

詳しくは後述しますが、ワーケーションに関する労務・税務で論点となるのは、この就業場所と就業時間が通常とは異なる点です。

 

ワーケーションの目的を決める

まずワーケーションを導入するにあたり、制度の目的を明らかにし、従業員と共有する必要があります。

目的の設定と共有を怠ると、せっかくのワーケーション制度が効果を得ないばかりか、目的を理解しない従業員との間にトラブルが生じる恐れがあります。

考えられるワーケーションの目的には次のようなものが挙げられます。

【ワーケーションの主な目的】

  • 従業員が適切なリフレッシュをすることで生産性が向上する
  • 多様な働き方を認めることで従業員の定着が図れる
  • 休暇中に一定の労働時間を設けることで、最低限の業務進行が期待できる
  • 家族との暮らしや生活と仕事の両立の助けになり、定着率が上がる
  • 魅力的な福利厚生として対外的なアピールになる

 

企業としては中長期の生産性向上や人員定着を狙うのが一般的と考えられます。

したがってワーケーション導入前後で生産性や社員の定着率がどう変化したのか、効果測定を行うとより目的の達成度合いが分かりやすくなります。

 

ワーケーションの取得方法と種類、労働時間

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ワーケーションを導入するにあたり、まずは次の要素を検討する必要があります。

  • ワーケーションの期間
  • ワーケーション中の就労日数
  • 休暇の種類は特別休暇とするのか、年次有給休暇とするのか

 

まずワーケーションの期間を定めるにあたり、適切な期間を検討しましょう。ワーケーション中の従業員については、休暇も兼ねているので短期的に生産性が下がります。

ワーケーション制度をすべての従業員が利用でき、かつ企業全体で生産性を保つためにどの程度のワーケーションの期間が適切なのか検討する必要があります。

入社年次に応じて割り振るなど条件を設けるのも有効でしょう。例えば勤続年数3年目、5年目などにワーケーションを利用できるといった形式です。

 

次にワーケーション中の1日あるいは週当たりの就業時間を定めておきましょう。

たとえばつぎのようなパターンが挙げられます。

  • 午前だけ就業する
  • 1日2時間は就業する
  • 週あたり10時間は就業する

1日あたりの就業時間が短いほど従業員のリフレッシュ効果が期待できますが、企業としてはワーケーション中の生産性を期待することはできません。

1日平均2時間程度の就業であれば、メールやチャットの確認や他の従業員からの質問対応で時間が過ぎてしまいます。

 

就業規則において休暇の取得単位が1日である場合に、ワーケーションでは1時間刻みで就業してほしいときは就業規則を改訂し、1時間単位で休暇の取得を認める必要があります。

また、取得する休暇についてもワーケーション用に特別休暇を新たに設けるか、あるいは年次有給休暇で対応するかの制度設計が必要になります。

ワーケーション用の特別休暇を設ける場合についても、新たに就業規則を変更する必要があります。

就業規則の運用について詳しく知りたい方はこちらも参考にしてください。

 

ワーケーション導入に伴う就業規則の変更

前述のようにワーケーション導入には休暇の単位と種類について、変更がある場合には就業規則の変更が必要になります。

そのほかワーケーション導入にあたり、就業規則の変更が必要となるものは次のものが挙げられます。これらは労働基準法において労働条件として明示しなければならないとされています。

【就業規則の変更が必要なもの】

  • 休暇の種類と取得単位
  • 始業及び終業の時刻
  • 就業の場所

 

仮にワーケーション中は何時から何時まで働くように改めて指定する場合には、始業と終業の時刻の変更があったとされる可能性があります。したがって始業と終業の時刻について就業規則の記載を改めましょう。

また、ワーケーションは普段のオフィスとは異なる、リゾート地などでの就業を行うため、就業の場所も変更したことになります。リモートワーク全般に言えることですが、オフィス以外での就業も認めるようにしましょう。

(法令の根拠:労働基準法第15条労働基準法施行規則5条1の3、同条2

 

ワーケーションで働く場所と安全・セキュリティの確保

次にワーケーション中の従業員の就業場所を検討しましょう。

適切ではない就業場所では、従業員や情報の安全が脅かされる可能性があります。制度の設計段階で、ワーケーション中においてどのような場所で就業すべきか決定し、従業員に周知することがリスク回避につながります。

具体的なリスクとしては次のようなものが挙げられます。

  • 従業員のけが・病気
  • PCの盗難
  • 不適切な通信回線からのウイルス侵入
  • モニターの覗き見による情報漏洩

 

従業員のけが・病気については詳しくは後述しますが、場合によってはワーケーション中でのけがや病気も就業中に起こったものとして、労働災害となる可能性もあります。

従業員の身に危険がおよぶ可能性がある地域は、ワーケーションにふさわしいとはいえないでしょう。仮に海外へ行く場合には、例えば外務省の海外安全情報を参考にしつつ、比較的安全な地域のみを指定することが想定されます。

また、PCの盗難、PCモニターの覗き見を防ぐためには、適切なワークスペースや個室での作業が望ましいです。

安全な通信回線の確保も要検討。ホテルのLANを使用するにあたり、ウイルスが侵入する可能性もありますので、モバイルルーターの準備などが対策として挙げられます。

 

ワーケーション中の労働時間の管理

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ワーケーションの導入にあたり、労働時間の管理が必要となります。長時間労働の防止やワーケーションの目的を達成するためにも適切に労働時間を管理しましょう。

 

まず労働基準法において企業は労働時間を適正に把握するため、従業員の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録することとされています。

(法令の根拠:労働基準法15条労働基準法施行規則5条

そのためワーケーションにおいて労働時間の管理をするには、従業員に出勤・退勤の時間を報告してもらう、あるいは日報を提出してもらうことが現実的です。

 

一方で、就業時間外に作業指示をすることは望ましくありません。

次のいずれかの場合にはそれぞれ次の時間が労働時間として取り扱われます。

  • 使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間
  • 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
  • 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

 

したがって、ワーケーション中はあらかじめ働く時間帯を決めておき、それ以外の時間については作業指示をしない、あるいは連絡をすぐに返すことを求めないとするのが適切と考えられます。

仮に休暇の時間帯に作業をするよう求めたり、連絡をすぐに返すように従業員に求めた場合は、その作業時間や待機時間も労働時間となる可能性があります。

ワーケーション中の仕事量の設定は慎重に行う必要がある点と、「業務時間外の連絡については翌日の返信でも良い」とするなど、制度上盛り込む必要があるといえます。

参考:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

 

ワーケーション中の移動時間の取り扱い

ワーケーションを導入すると、ワーケーションする場所までの移動時間が発生します。移動時間についてどのように取り扱えば良いのか確認しましょう。

基本的な考え方は企業の指揮命令下にあるかどうかです。企業の指揮命令下にあると考えられる場合は移動時間であっても労働時間に該当します。

 

ワーケーションでも従業員の都合による移動は原則休憩時間

従業員が自宅などからワーケーション先のホテル等に向かう移動時間は、その移動を企業が命じたわけではなく、従業員の都合によるものと考えられますので、休憩時間などの扱いになります。

ただし、会社からの指示を受けて移動中に業務上の連絡をとる、作業を行うなどしていた場合は就業時間に該当します。

 

会社都合による移動はワーケーション中でも就業時間

従業員に対し、業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じている場合、その移動時間は就業しているものとされます。例えばワーケーション中にその地域の支店を訪問するように命じられていた場合は、その移動時間は就業時間になると考えられます。

 

ワーケーション中の業務災害の取り扱い

ワーケーション中にけがや病気をすることが考えられます。

業務とプライベートが混在するワーケーションですが、どのような場合に業務災害となるのか、場面に応じて確認しましょう。

 

ワーケーション場所への移動中でのけが

ワーケーションにあたり、自宅またはオフィスからワーケーション先への移動が生じます。

厚生労働省・東京労働局の所轄に問い合わせたところ、「ワーケーション先への移動中にけがを負った場合には業務災害には該当しない」と回答を得ました。

 

労働災害が認められるためには業務遂行性(従業員が労働関係のもとにあったという事実)が前提として必要になります。ワーケーションでは従業員が自分の意思で任意に行き先を決め、それを企業が認めたということになります。この場合は従業員が企業の支配・管理下を離れたため、業務遂行性がないと解釈することができます。

つまりワーケーションという業務を含んだ移動であっても、企業が就業場所を命じたわけではなく、従業員が好きなところに行っているので、業務にはあたらないという考え方になります。

しかし業務災害にあたらないとはいえ、従業員のけが・病気は喜ばしいものではありません。やはり安全面や衛生面で問題のない地域に行ってもらうように、制度作りをする必要があるといえます。

このように、企業には従業員が安全に働ける環境を整える義務(=安全配慮義務)があります。安全配慮義務について詳しく知りたい方はこちらも参考にしてください。

 

就業時間中でのけが等

ワーケーション中の業務時間内にけがを負った場合、業務災害に該当します。これは通常の業務に服していたと理解することができるためです。

 

就業時間外でのけが等

ワーケーション中でオフの時間に観光などをしてけがを負った場合、業務災害には該当しません。これは明らかに使用者の支配・管理から離れており、業務中ではないと解釈することができるためです。

法令の根拠:労働基準法75条労働者災害補償保険法7条厚生労働省「業務災害について」

 

ワーケーションのセキュリティ対策と税務上の注意点

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ワーケーションを導入するにあたり、セキュリティ管理の面から安全なパソコンと通信環境の整備などが必要になります。

例えばホテルのLANにつなげることでウイルスの混入や情報漏洩の危険があるため、モバイルルーターなどで安全な回線を用意することが求められます。

また、コワーキングスペースなどで作業する際にのぞき見を防止するために、画面にのぞき見防止フィルターを貼ることも有効になります。

 

これらの費用について、企業が購入し、従業員に貸与する場合には、その費用は企業の通常の経費となります。

一方で、これらの準備費用として企業が従業員に現金を支給した場合や、企業の負担で支給した場合には、従業員は給与として課税されます。つまり企業はその支給分について源泉徴収義務が生じることになります。

  • 貸与→購入費用は企業の経費
  • 支度金として支給→給与

 

所得税法では金銭だけでなく、なにかをタダでもらうといった、「経済的利益」についても所得税を課すこととされています。さらに所得税を課さない(=非課税)とされるものの範囲は限定的で、ワーケーションに必要なものの支給は課税される可能性が高いといえます。

支度金のほか、必要な備品を企業で購入して支給した場合には給与として取り扱われますので、備品を貸与としたほうが、実務面では煩雑にならないと考えられるでしょう。

法令の根拠:所得税法9条、183条所得税法施行令21条

そのほか、テレワーク中での経費の取り扱いについては別の記事で詳しく解説しています。

 

ワーケーションは魅力的な制度!

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では最後に記事の大事なポイントをまとめます。

  • ワーケーション導入の目的を定め、効果を測定する
  • 休暇の種類や取得単位について、就業規則を改定する
  • 従業員の安全や情報セキュリティの面から地域について検討する
  • ワーケーションであっても業務中のけが等は業務災害となる
  • 支度に必要なものは貸与とすれば給与課税とならない

 

ワーケーションは主に労務を中心に、税務においても気を付けるポイントが多く、導入は楽ではありませんが、従業員にとっては魅力的な制度となりえます。

ご参考になりましたら幸いです。

参考:厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」

Back Office Magazine
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Back Office Magazine編集部ライター鈴木悠
記事の作成・監修者 鈴木悠
Back Office Magazine編集部ライター

「ややこしい話をわかりやすく」をモットーに執筆する編集部ライター。今まで国内最大手を含む税理士法人2社を経験し、税務会計に6年半携わる。年間30超の法人・個人の税務顧問を務め、法人税・所得税・消費税を中心としたアドバイザー業務に従事した。売上100億円規模の企業をはじめ、担当した業種は飲食・製造・卸売り・観光・アパレルなど。税務の本業の傍ら、副業でウェブサイト運営やYouTube運営を経験したのをきっかけに、メディア作りに魅力を感じ現職に就く。

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