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令和3年の税制改正の目玉 デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制とは?

令和3年の税制改正の目玉 デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制とは?

令和2年12月10日、令和3年度税制改正大綱が公表され、政府与党が掲げる“デジタル化”の方針に沿った攻めの視点から、新たな「DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制」が創設されました。

人工知能(AI)やIoTの普及加速に合わせ、企業もIT化を積極的に進めなければならない時代が訪れています。デジタル技術を活用して旧来のシステムを刷新し、顧客や社会のニーズに対応した合理的なビジネスモデルを構築していく必要があります。

このIT投資の概念はデジタルトランスフォーメーション(DX)と称され、株式市場でも強力な物色テーマとして投資家の注目を集めています。「DX銘柄」はウィズコロナやアフターコロナ環境で主導権を握る銘柄群として今最も熱い分野と言っても良いかもしれません。

新型コロナウイルス感染症拡大により、行政も民間もデジタル化の遅れなど様々な課題が浮き彫りになったとして「国民の利便性や生産性向上の観点から、日本社会のDXの取り組みを強力に推進する」と政府は宣言しています。今回はこの新たに創設された税制の概要とその背景、これからの日本経済についてまで幅広く取り上げます。

 

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DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

経済産業省の定義では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確率すること」とされています。DXは単なるIT化ではなく、企業や社会をデジタル技術で変革する取り組みのことを指します。

具体的にはAI、IoT、RPAといったデジタル技術がインフラ、制度、組織、生産方法など従来の社会・経済システムに導入され、国民生活をより良いものに変革することです。

2004年にスウェーデンのウメオ大学教授エリック・ストルターマン氏が提唱した概念で、元は「進化し続けるテクノロジーが生活をより良くしていく」というものでした。IT化が業務効率化などを「目的」として、情報化やデジタル化を進めるものであったのに対し、DXはそれを「手段」として変革を進めるものになります。

名前の由来としては、“D”はdigitalから来ており、“X”はtrans-という言葉が「超える」「横切る」「交差する」という意味を持っており、視覚的に表しているのがXという英語圏での表記に準じたことに由来します。

 

新型コロナウイルスがもたらした影響

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新型コロナウイルスの感染症拡大により、国民生活のあり方は大きく変わりました。

働き方においては在宅勤務やテレワークが一般的となり、教育現場においては遠隔による通信授業、消費生活においては非接触型のニーズが高まり、その他においても非対面・オンラインでの需要が増え、様々な分野においてDXによる製品やサービスの導入が進みました。

株式会社アイ・ティ・アールが2020年8月から9月にかけて国内企業を対象に実施したIT投資動向調査の結果によると、2020年度のIT予算額が前年度から「増額」とした企業の割合が36%となり、一方2020年度に「減額」とした企業の割合が2019年度からほぼ倍増し15%となり、2極化しました。

これには新型コロナウイルス感染拡大に伴い企業の資金調達難が関係していると見られ、今後もIT予算増額の勢いは減速することが予想されます。

しかし、その中においてDX推進専任部門を設置している企業は前年から増えて7割に迫っており、DX推進へ意欲的であることが分かりました。こういった企業はIT投資インデックスが軒並みプラス水準となっており、コロナ禍に伴う厳しい経済情勢下にあっても積極的なIT投資を継続する見通しが示されました。

参考URL: https://www.itr.co.jp/company/press/201112PR.html

 

日本企業におけるDX文化の浸透度合い

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デル・テクノロジーズはレポート「Dell Technologies Digital Transformation Index(DT Index)」における日本の状況を公開し、2016年から2年ごとに実施されている「世界中の企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の現状と、デジタルの時代におけるビジネスのパフォーマンスを示すグローバル規模の調査(DT Index)」を紹介しました。

そのレポートではデジタルの導入度合いに基づいて「デジタル後進企業」「デジタルフォロワー」「デジタル評価企業」「デジタル導入企業」「デジタルリーダー」の5段階に分類しています。

世界では「デジタル導入企業」が大きく伸びる一方で、「デジタルフォロワー」が減少し、「デジタル評価企業」以上に位置付けられるのが全体の80%以上になっているとのことです。

しかし、日本の場合は「デジタルリーダー」「デジタル導入企業」「デジタルフォロワー」が前回調査時とほぼ同数、「デジタル評価企業」が増加、「デジタル後進企業」が減少し、「デジタル評価企業」以上は全体の50%に留まりました。世界よりDXが数年遅れているのが現状ですが、今回の税制改正により国を挙げてDX推進に取り組むことが期待されます。

 

DX投資促進税制について

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経済産業省と財務省は、令和3年度税制改正で、企業のDXを後押しするために研究開発税制を見直しました。今までの税制優遇が機械や部品といったモノの開発が中心であったのに対し、今回の税制改正ではクラウド活用に必要なソフト開発への投資も含まれました。これらの投資について特別償却または税額控除を認める新たな税制措置が講じられる予定です。

 

DX投資促進税制成立の背景

2018年5月に経済産業省が立ち上げた「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」で官民を挙げてのデジタル化投資の重要性が強く認識されました。

これがDXに向けた本格的な取り組みの第一歩とも言えますが、令和3年度の税制改正の主幹の一つであるDX推進では、クラウドサービスへ移行する企業が行う設備投資に対する税制優遇策が創設されました。菅政権が掲げる官民のデジタル化の実現に向け、企業変革を税制面でも後押しするのが目的です。

菅義偉首相はデジタル庁の創設を看板政策に掲げるなど、社会のデジタル化を一気に進める意向で、新型コロナウイルスの感染拡大も大きな追い風となりました。自民党の甘利明税制調査会長には、デジタル化推進に向けた誘導策を検討するよう指示し、追加経済対策にも1兆円規模の関連費用を確保しました。

政府・与党は税制改正で、企業・組織間でデータの共有・連携が可能となるクラウドサービスに目を付け、「つながるDX」をキーワードに、新型コロナで浮き彫りとなったデジタル化の遅れへの対応策を検討しています。

 

DX投資促進税制の概要

ここで、今回の税制改正大綱に盛り込まれたDX投資促進税制についてもう少し詳しくみていきましょう。

 

DX投資促進税制の対象となる法人

ウィズ・ポストコロナ時代を見据え、デジタル技術を活用した企業変革(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためには、経営戦略・デジタル戦略の一体的な実施が不可欠です。このため、産業競争力強化法に新たな計画認定制度が創設されました。

DX投資促進税制の対象となる法人は以下のすべての要件をみたすものです。

【DX投資促進税制の対象となる法人】

  • 青色申告書を提出する法人であること
  • 産業競争力強化法の事業適応計画について認定を受けたこと
  • 同法の改正法の施行日から令和5年3月31日までの間に、その事業適応計画に従って一定の設備投資の支出をしたこと

 

DX投資促進税制の効果

DX投資促進税制の適用を受けると次のいずれかの税優遇を受けることができます。

【DX投資促進税制の効果】※

  • 取得価額の30%の特別償却
  • 取得価額の3%の税額控除
  • グループ外の事業者とデータ連携する場合には取得価額の5%の税額控除

※個人事業主にも同様の改正が行われる予定です。

 

なお、税額控除における控除税額は、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の税額控除制度による控除税額との合計で、当期の法人税額の20%を上限とします。また、対象資産の取得価額及び対象繰延資産の額の合計額のうち、本制度の対象となる金額は300億円を限度とします(投資額の下限は売上高比0.1%以上)。

カーボンニュートラル税制に関する詳しい記事はこちら。

 

DX投資促進税制の認定要件

税制改正大綱によると、まず改正する産業競争力強化法に基づく事業適応計画(仮称)の認定を受ける必要があります。

認定要件にはデジタル(D)要件と企業変革(X)要件の2つがあります。デジタル要件は①データ連携・共有(他の法人等が有するデータ又は事業者がセンサー等を利用して新たに取得するデータと内部データを合わせて連携すること)、②クラウド技術の活用、③情報処理推進機構が審査する「DX認定」の取得(レガシー回避・サイバーセキュリティ等の確保が挙げられています。

企業変革要件は①全社の意思決定に基づくものであること(取締役会等の決議文書添付等)、②一定以上の生産性向上などが見込まれること等などが要件として設定されています。そのため、部門・拠点ごとではない全社レベルのDXに向けた計画である必要があります。

 

DX投資促進税制の対象資産

DX投資促進税制の対象となる資産は、産業競争力強化法の事業適応計画に基づいて使用される資産で次のいずれかです。

【対象となる資産】

  • ソフトウェア
  • 繰延資産(クラウドシステムへの移行に係る初期費用)
  • 器具備品(ソフトウェア・繰延資産と連携して使用するものに限る)
  • 機械装置(ソフトウェア・繰延資産と連携して使用するものに限る)

 

制度案では、クラウド活用や、システムが古くなり新しい課題に対応するための改修が難しくなる「レガシー化」を回避する投資などを対象とします。条件を満たしているか判断する際には、情報処理促進法に基づき、DX推進の準備が整っている事業者を国が認定する制度を活用します。

 

国内外において始まっているDXの例

ドイツの製造メーカーポルシェ社は、製造現場でのデータ収集・仮想空間でのシミュレーションを通じて柔軟に生産ラインを調整できるシーメンス社(ドイツの製造会社)のソフトウェアを利用し、サプライチェーンの変革を行うなどして製造現場のDXを実現しました。また、日系大手小売業はIT企業と提携し、ロボット・AIを活用した大型自動物流倉庫パッケージを導入しています。品揃えの大幅増加、配送ルートの最適化による時間・コストの大幅短縮、24時間発送対応等、従来の自社店舗・自社ECでは実現し得なかった顧客利便性を実現する「時世代ネットスーパー事業」を本格化しました。

 

DXの阻害要因

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日本のDXが遅れている要因としては「予算とリソース不足」「スキル及びノウハウの不足」「デジタル文化が未成熟」「脆弱なデジタルガバナンス/構造」といった多くの“意識”系問題が挙げられています。特に昨今はコロナ禍でグローバルに比べて取り組みが遅れていたテレワーク体制の構築に投資が回った結果、「知識共有とデジタルスキル投資」への取り組みがあまり進んでいません。

さらに元々複雑化かつ老朽化し、ブラックボックス状態となってしまったレガシーシステムが足枷となって、国際競争への遅れや日本経済の低迷を招くことが危惧されています。これを「2025年の崖」と呼んでおり、今年数年以内にシステム刷新を進めないと年間で最大12兆円の経済損失が発生すると試算されています。

経済産業省のDXレポートによると、2025年には21年以上稼働しているレガシーシステムがシステム全体の6割を占めると予測されており、今後これらのシステムを刷新しないと、波に乗り遅れた企業は多くの事業機会を失うことになるでしょう。

もしDX投資の課題がクリアできた場合は、2030年には実質GDPで130兆円超の押し上げ効果が実現するとの試算も開示されています。こうした中、ソフト開発やクラウド、AI・IoTソリューションなどを手がける企業は、DX投資の担い手として株式市場でも注目度が高まっています。

 

今後の展望

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制度の適用時期が産業競争力強化法の改正法の施行日から令和5年3月31日までとなっていますが、本税制の施行日は未定です。また税制優遇を受ける上での要件・申請法などについても具体的な発表がありませんので、今後の動向に留意する必要があります。

与党税調幹部内には「『大胆に投資を促す』と言っても、税でできることは限られる」との指摘もあり、コロナの収束が見通せない中、DX推進を促す今回の税制措置でポストコロナの経済構造を転換し、経済の回復につなげられるかどうかは依然不透明な状況が続いています。

 

まとめ

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新型コロナウイルスの感染拡大を機に、行政だけではなく、民間企業のデジタル化の遅れが指摘されています。2025年までにシステム刷新を集中的に推進しなければ、日本企業はデジタル競争の敗者になりかねません。2020年春から日本においても5G(第5世代移動通信システム)のサービスが始まっています。

電子契約やAI、IoTやRPAなどのデジタル技術を活用できる企業と、老朽化したシステムによりデータを活用できない企業との競争力の差は広まるばかりです。DXは手段に過ぎず、目的ではありません。レガシーシステムに要する維持管理コストが高止まりしている中、IT投資に人材、時間、資金を振り向けられないという現状をいかに打開していくかが問題です。

デジタル時代を勝ち抜くために、経営のリーダーシップのもとで開発・運用・保守のポートフォリオを俯瞰し、全体最適の観点で業務プロセス改革と併せてIT構造改革に取り組むことが必須となります。同じく経済産業省が推進している令和元年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業である「IT導入補助金2020」も上手く併用しつつ、DX投資を推進し日本経済の生産性向上につなげていくことが、今後各企業に求められる課題となるでしょう。

令和3年の税制改正ではほかにもデジタル化を推進する制度が盛り込まれています。

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記事の作成・監修者 Back Office Magazine編集部
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