税金・税務

電子帳簿保存法とは?|2021年度改正の変更点と適用要件

電子帳簿保存法とは?|2021年度改正の変更点と適用要件

企業だけでなくさまざまな分野で、進められている文書の電子化、ペーパーレス化。令和3年度税制改正大綱のなかで電子帳簿等保存制度が見直されました。従来も帳簿や領収書などの書類の電子データ化は認められていましたが、経理の実務面でより活用できるよう変化しています。

業務改善のために書類を電子化するにあたり、電子帳簿保存法の改正点を理解することが大切です。2022年1月に施行される改正電子帳簿保存法における、対象文書や適用するための要件など注意すべき点について解説します。

電子帳簿保存法とは?

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文書のペーパーレス化を進めるうえで、押さえておきたい法律が電子帳簿保存法。正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。1998年7月に制定されてから、20年以上の歳月を経て企業の実態に即したカタチで改正されてきました。

2015年には電子署名が不要に、2016年にはスマーフォン撮影の領収書の電子保存が可能になったことが大きな特徴です。2021年度の改正で変更された点についてみてみましょう。

電子帳簿保存法:2021年度の法律改正での5つの変更点

2021年度の改正で押さえておきたい変更点は5つです。それぞれについて説明します。

1)承認制度の廃止

従来は、書類や帳簿などの文書を電子データとして保存する場合、所轄の税務署への申請が必要でした。2021年度の改正により、2022年1月1日以降に作成される文書類についてはこの申請が不要になり、簡略化されました。

2)優良電子帳簿制度

届出なしで電子データ化や保存が可能になりましたが、電子帳簿保存法に則った保存は必須です。適正な保存方法で電子データ化されていれば「優良電子帳簿制度」が認められます。事前に届け出れば、税務調査において電子化された帳簿の記載事項に関して追徴税が課せられても、過少申告加算税の5%が減免されます。

3)国税関係書類に関するスキャナ保存制度の緩和

訂正や修正を行った場合には一定の要件のもとで、タイムスタンプ付与が必要なくなりました。また、今回の改正によってタイムスタンプの付与期限が緩和され「2か月とおおむね7営業日」と統一されたのは特筆すべき点です。

また「適正事務処理要件」の廃止も見逃せません。入力にあたって2名以上の態勢で原本確認をしたり、定期的に検査を行なったりしていましたが、不要になりました。ほかに検索項目が取引年月日・取引金額・取引先の3つになったことで、システム構築や運用面におけるハードルが下がったのです。

4)電子取引データ保存の厳格化

電子取引に関わる書面保存が不可となりました。従来はデータを出力した書類の保存もできましたが、2022年1月1日以降の電子取引では、電子データに代えて、印刷した書面の保存は無効です。

請求書などをメールで受信した場合、出力したものを紙の請求書と一緒に保存することが一般的に企業では多いでしょう。今後はメールに添付して送られた請求書は電子データとして保存しなければなりません。

5)データ改ざんなどへの罰則規定

従来は電子帳簿保存法の要件に従っていなくてもデータが存在すれば、必要な帳簿がないことにはなりませんでした。今回の改正によって要件に従って保存されていなければ、税法上保存が必要な帳簿として取り扱えなくなりました。

また電子取引データやスキャナ保存された文書の改ざんなどがあれば、重加算税10%が加えられます。これまでも改ざんなどによる不正計算に対しては35%の重加算税が課せられていたので、合計で45%もの重加算税が課せられることになるため注意が必要です。

電子帳簿保存法:電子データの保存期間は最長10年

税務上、帳簿書類の保存期間は7年間です。電子データについても同様に7年間の保存される必要があります。法人の場合は確定申告書の提出期限の翌日から7年です。電子保存の場合は、電子帳簿保存法の要件を満たさなければ、税務上必要な帳簿として認められなくなるため、要件に則っているかどうかについては慎重なチェックが必要でしょう。

7年保存の例外は欠損金が生じている場合です。欠損金の繰越控除は10年以内にわたって行なえるため、帳簿書類の保存期間は10年間に延長されます。電子データの場合も同様です。

なお、個人事業主の帳簿保存期間は5年で、欠損金の繰越控除は3年以内であるため延長されることはありません。

電子帳簿保存法で定められている対象文書と保存方法

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電子帳簿保存法に則ってペーパーレス化を進めるうえで、押さえておきたいポイントが、対象文書と保存方法です。会計帳簿や決算書などの書類は、紙での保存が基本でした。電子データになっている文書も印刷して紙として保存している企業も多いでしょう。

電子帳簿保存法が1998年に成立しましたが、適用を受ける要件が多く導入に積極的に動かない企業がほとんどでした。数回の電子帳簿保存法の改正を経て、要件が緩和されたことによって、加速度的に導入が進むと予想されます。ここからは導入にあたって重要な、対象文書と保存方法について説明します。

領収書の原本の保存は?電子帳簿保存法における電子保存の対象文書

企業で日々発生するのが、領収書です。電子データ化したときに原本を廃棄してもいいかどうかも迷います。従来は7年間の保存が必要だった領収書は、ペーパーレス化がとくに遅れていました。

2022年1月に施行される電子帳簿保存法では、一定の条件を満たすキャッシュレス決済の場合は、領収書の原本の保存は不要です。これによっていっそうペーパーレス化が進むでしょう。では、ほかの帳簿などの書類はどうでしょうか?具体的に見ていきます。

電子保存の対象になる文書

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すべての書類に電子帳簿保存法が適用されるわけではありません。国税関係書類の電子データ保存は、「帳簿」「決算関係書類」「その他の証憑類」に分けて適用されます。

帳簿 総勘定元帳・当座預金帳・現金出納帳・仕訳帳・売掛元帳・買掛元帳・固定資産台帳など
決算関係書類 貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書・棚卸表など
その他の証憑類 請求書・領収書・注文書・納品書・見積書・契約書など

電子保存の対象にならない文書

電子保存が認められていない文書には、手書きで作成された仕訳帳や総勘定元帳、請求書の写し、補助簿があります。

参考:国税庁 電子帳簿保存法一問一答 問4

スキャナ保存OKな書類とNGの書類

紙で保管している書類はスキャナ保存できればペーパーレス化が一気に進みますが、スキャナ保存が認められている書類と認められていない書類があります。

スキャナ保存OK 請求書・領収書・注文書・納品書・見積書・契約書など、取引先から受領した証憑類
スキャナ保存NG 帳簿類と決算関係書類

基本的に自社で作成する書類はスキャナ保存が認められておらず、電子データと書面による保存のみが可能です。

電子帳簿保存法で定められている保存方法

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紙の文書をスキャンして保存できるようになったのは、2005年3月の改正からです。電子データで国税関係帳簿書類を保存するには、3通りの方法があります。

システム上で作成し保存する

業務で使用しているシステム上で作成したデータを電子データのまま保存する方法です。保存場所はサーバー、DVD、CDなどの電磁的記録媒体になります。一定の項目での検索や削除や訂正の事実を確認ができるなどの要件を満たせば、電子データでの保存が可能です。電子帳簿保存法に対応したシステムを利用すればクラウドでの保存もできて安心でしょう。

ペーパー文書をスキャンする

スキャナ保存は、取引先などから受け取った書類や、相手に渡すために作成した書類の写しを、電子保存するために規定されています。スマートフォンで撮影したデータも保存可能になりました。

COMで保存する

電子帳簿保存法ではCOM(電子計算機出力マイクロフィルム)での保存が認められています。マイクロフィルムとは、カメラで書類を1/10~1/30に縮小して撮影する写真技法のことです。撮影したフィルムは専用の機器で拡大して閲覧するほか、デジタル化やプリントアウトも可能です。一般の写真フィルムよりも画像の粒子が細かく新聞の文字でも記録できます。

電子帳簿保存法における適用要件と手順

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電子帳簿保存法では、電磁的記録やスキャナ保存について、適用するための要件が定められています。それぞれについて説明します。

電子帳簿保存法:電磁的記録の適用要件

電子帳簿保存法の電子データをDVDやCDなどの電磁的記録媒体に保存するための要件は次の通りです。

1)変更履歴がわかるシステムを使用

帳簿などをパソコンで作成すれば、簡単に訂正や削除が行なえます。そのため、変更の履歴を追跡できなければなりません。

2)システムの説明書が必要

電子帳簿保存法に対応したシステムを使用する場合、導入した経費精算システムなどの説明書を備え付けるのは要件のひとつです。

3)ディスプレイとプリンタの設置

電子データを「見える化」するためのディスプレイやプリンタは、税務調査のときに必要です。

4)電子データの検索機能

保存している電子データを「年月日」「金額」「取引先」から検索できること、という要件があります。

電子帳簿保存法:スキャナ保存の適用要件

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スキャナ保存を適用するための要件は、システム、入力機器、出力機器のそれぞれについて、以下のように細かく規定されています。

スキャナ保存が容易になりましたが、データ改ざんが簡単にできるのであれば問題です。スキャナ保存を導入する場合は、社内文書規定の整備やルール作りを行なうなど、企業内での独自の取り組みも必要になるでしょう。

1)システム

  • スキャニングしたときの入力時間、解像度、階調などの情報が確認できる
  • 訂正や削除したデータがわかる
  • スキャニングし原本と突き合わせ確認した入力者情報が確認できる
  • 責任の所在を明らかにする
  • 証憑スキャナデータと仕訳明細データの紐づけ
  • 「年月日」「金額」「取引先」から検索できる

2)入力機器

  • 解像度200dpi以上
  • スマートフォンのカメラは387万画素以上
  • カラー画像は赤青緑各256階調

3)出力機器

  • 14インチ以上のディスプレイ
  • 4ポイントの文字が認識可能なカラープリンター
  • 整然とした形式および明瞭な状態での出力が可能

電子帳簿保存法を適用するための手順

2021年度の改正によって、2022年の1月1日から施行される電子帳簿保存法にもとづく手順が、簡略化され、以下の4つの手順で進められます。

2022年の施行前までは、手順3のあとに、「電子保存を開始する3カ月前までに所轄の税務署に申請書を提出」という手順がありました。企業は準備を整えてから3カ月間待機しなければいけません。2021年度の改正によって、時代の流れに即してスピーディーに電子保存の導入が可能です。

1)電子データ化する証憑・文書を決定

企業内の経理の実態に即して、対象文書を決めます。とくに注意したいのが、領収書などスキャナ保存する書類です。

2)文書管理規定および電子化手順書などを用意

電子化された文書は利便性の高さなど、多くのメリットがあります。一方、デメリットとしてあげられるのが、紙文書と比較して電磁的記録媒体は寿命が短いこと、専用のシステムやハードウェアが必要なことなどです。また、専門知識がなくては廃棄できません。デメリットを踏まえたうえで文書管理規定には、見読性・機密性・真正性について明記します。

3)電子帳簿保存法に対応したスキャナや会計システムを設置

スキャナや会計システムは上述した適用要件を満たしているものを準備します。

4)電子保存の開始

税務署への申請書提出および承認という手順はなくなりましたが、罰則規定も盛り込まれていますので、慎重に開始することが大切です。

電子帳簿保存法にもとづく業務改善のメリット

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2021年度の改正は、経済社会のデジタル化に伴って電子化を進めなくてはならない状況になったことに起因しているといえます。電子化を進めるうえで、壁となっていた電子帳簿保存法をより実態に即したカタチにすることで、電子化を導入する企業は増加しています。

企業が電子帳簿保存法にもとづいて、経理の業務改善を行ない文書の電子化を進めることのメリットは以下の通りです。

紙保存のリスク軽減

紙保存には、水に濡れたり破れたりして読めなくなるという「紙」の性質によるリスクがあります。極端な場合は火災で消失することも。電子帳簿保存法を適用すれば、状態に変化なく読みやすさを維持し、安全に保存可能です。クラウドを利用すれば電磁的記録媒体の紛失リスクも回避できます。

業務の効率化

たとえば領収書を探す必要が生じたとき、経費帳や金銭出納帳などからおおよその時期を洗い出し、領収書綴りをめくって見つけなければなりません。また、請求書や見積書なども新たに物品購入する場合などは前回分を見直す機会があります。

電子化された文書は「金額」「取引先」などで検索できるため、容易に探し出せます。経理はこの「探す」時間が意外に多く業務の妨げになっているものです。探す時間の短縮は、間違いなく効率化につながります。

また経費管理システムを導入し、交通系のICカードやキャッシュレス決済を利用すれば、紙の領収書がなくなり、いっそう業務の効率化が進みます。

コスト削減

国税関係の書類の保存期間は7~10年です。紙の書類は膨大で、保存用のファイルや箱、安全な保管場所のコストがかかります。文書を電子化すれば、紙保存のコスト削減が可能です。また業務の効率化による人員のコスト削減も見込めます。

まとめ

電子帳簿保存法改正によって業務改善を実現!

新型コロナの影響で、テレワークが推進されました。電子帳簿保存法対応したクラウド会計ソフトや経費管理システムなどの普及によって、いっそう導入しやすくなるでしょう。交通系のICカードやキャッシュレス決済も経理業務の効率化を後押ししています。電子帳簿保存法によって新しい仕組み作りを行なうことで、企業の大きな業務改善が期待できるでしょう。

企業の教科書
記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

東京都千代田区にある税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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