勤めている会計事務所や税理士法人を辞めたいと考えている人へ。いま現在、さまざまな苦悩や葛藤があることと思います。
これから先を考えるにあたり、どのようなキャリアプランがあるのか、転職や退職にあたり気を付けたいポイントについてお伝えしていきます。
この記事を書いている人は今まで大手税理士法人などを経験のうえ、現在は人材事業に携わっています。経験や感じたことを少しでも共有できればと思います。
会計事務所を辞めたい。よくある理由5選
会計事務所や税理士法人を辞めたいと考える人のなかには、どのような理由があるのでしょうか?業界内でよくある転職理由と、とれるアクションプランについてご案内します。
会計事務所を辞めたい理由①:仕事がつまらない
まず多いのが「仕事がつまらない」という人。なにがつまらないと感じるかは人それぞれではありますが、よくあるのが
- 入力作業が多くてつまらない
- 任せられる仕事の幅がないためつまらない
- 個人の能力を活かせていないと感じる
このような理由をよく聞きます。
「つまらない」と感じる裏には、「新しいこともやりたい」「異なることにも挑戦したい」という気持ちがあるのではないでしょうか。
かつての同僚のなかに、このような方がいました。
「前職が小さな会計事務所で、赤字決算ばかりで申告書を作るにもやることがほとんどなかった。そのため自分自身の成長が見込めなかった」
こうした理由で転職してきた人もいました。
新しいことに挑戦するために、転職はひとつのアプローチではあります。一方で現職の会計事務所に業務の幅が広くある場合は、配置転換や異動願いをして、異なる業務に挑戦してみるなどの方法もあるでしょう。
会計事務所を辞めたい理由②:残業が多い
会計事務所は繁忙期と閑散期がはっきりあります。繁忙期は深夜まで仕事することも。また、税務だけでなく経営相談も行う事務所の場合、さまざまな業務もついて回るため、普段から忙しくなることもあるでしょう。
残業が多い場合、「自分自身の能力」と「やりがい」の2軸で考えると判断しやすいと思います。
たとえば、自分の仕事量が周りと比べて変わらないのに自分の残業時間が多ければ、能力不足が原因かもしれません。仕事術を周りから学ぶほか、オフの時間の能力開発で解決への糸口になるでしょう。
次に仕事量が多すぎる場合、やりがいの部分でも検討してみましょう。
仕事量が多かったとしても自身のスキルアップにつながる場合は、キャリアプラン全体で見た場合はプラスになることもあります。一方でスキルアップにつながらない業務を大量にこなしている場合は、冷静に自身のキャリアプランを見つめなおしてみましょう。
いずれにしても残業が多すぎる場合は、心身ともにダメージが蓄積されます。とくに心のダメージは気づくのが遅れると回復に時間がかかる可能性もあります。つらいときはすぐにライフワークバランスを見直すようにしましょう。
会計事務所や税理士法人には「残業が少なめ」など、ワークライフバランスを考えている事務所もあります。もし現在ご自身の求める働き方が勉強時間の確保を優先したいなどであれば、検討してみましょう。
会計事務所を辞めたい理由③:給与が低い<
続いて給与の低さもよく退職理由にあがります。
残念ながら会計事務所によって給与テーブルが決まっていますので、給与に不満がある場合は転職で給与アップを狙うほかないかもしれません。
一方で給与に不満で事務所を退職する旨を伝えると、現職での報酬がアップする事例もあります。
はじめから現職での報酬アップを狙って転職するのは得策ではないですが、覚えておいて損はないでしょう。
会計事務所を辞めたい理由④:上司のパワハラ・セクハラ
会計事務所に限らず、パワハラやセクハラで悩む事例は後を立ちません。とくに会計事務所の管理職はプレイングマネージャーであることがほとんど。
管理業務をしながら自身もプレイヤーとなるため業務が忙しい人が多いです。ストレスのためなのか、人格がとんでもないことになっている上司もなかにはいます。
パワハラを受けた際にまずやるべきことは証拠集めと人事などへの相談。事務所としてもパワハラをする人間のせいで離職率が高まることは望んでいないはずなので、対応を期待できるでしょう。また、企業には安全配慮義務があり、パワハラやセクハラに対してきちんと対処する義務があります。
しかし中には相談する相手がいない、事務所の所長自身がパワハラを行っているなど、原因を取り除くことが難しい場合もあります。
もし事務所側で適切な対応が見込めない場合には、転職を視野にいれるべきでしょう。
会計事務所を辞めたい理由⑤:代表税理士と合わない
比較的規模の小さな事務所だと代表税理士との精神的な距離が近く、性格的な相性が仕事に影響を及ぼすことがあります。仲がよいときは可愛がってもらえますが、仲が悪くなると職場での居心地がよくないというのはよく聞く話です。
小さな事務所の場合、配置転換なども難しいでしょう。比較的規模の大きな事務所へ転職したほうがこのようなトラブル防止になります。
会計事務所を辞めるかどうか迷ったときに考えること
いざ会計事務所を退職しようと思ったものの、人間は変化を恐れるものなので、迷ったり不安に感じることも多くあります。退職に際して感じる不安と対策について説明します。
退職での迷い:転職した先でやっていけるかという不安
退職の際には次の転職先を見つけておくのが理想。とはいえ転職先が見つかるか、転職先でやっていけるか不安に感じる人もいるでしょう。
結論から言うと、大丈夫です。まず転職先が見つかるかという不安については、税理士業界の求人は2021年時点で売り手市場ですので、求人が見つけやすい状況です。とくに税務会計は経験が重視されるので、現職での実務経験は大きなアピールとなるでしょう。
また転職先が見つかった場合も、職務経歴や面接などを通じて、転職先が「この人なら一緒に働ける」と判断したということ。それでも不安があるなら率直に不安を転職先に相談し、面談の機会などを設けてもらいましょう。
税務会計の仕事では基本的な業務はどの事務所でも似たことをやります。また、転職先が経理職やコンサルティング職などの他業種であっても、会計事務所での経験を活かせる要素が多くあります。自身の経験に自信をもって次の職場に踏み出せばよいでしょう。
退職での迷い:自分に合った職場もある
人間関係で悩む人の中には「自分に原因があるのでは」と、自分自身を責めてしまう人もいます。
人間関係については人との相性、職場の体制や雰囲気など多くの要因があります。そのため、一概に誰か一人のせいということはかえって少ないように考えられます。
さんざん悩んで転職してみたら転職先の雰囲気が快適で、前職で感じていたストレスがなくなった、ということも。
もちろん自分自身が合わせる努力も必要ですが、組織とは人の集まりですので、自分に合った人達が集まった組織もきっとあるといえるでしょう。
退職での迷い:事業会社の経理もアリ
たとえば2月3月の確定申告時期が忙しすぎて、とても辛いと感じる人には事業会社の経理という選択肢もあります。
とくに中小企業は開示がない分、税務会計を重視する傾向にありますので、会計事務所出身の人材を積極に登用したいと考える企業も多くあります。
上場企業についても税務ポジションなど、専門性を活かせる領域もあるので検討してみましょう。
会計事務所を辞めるときの7ステップ
それでは実際に会計事務所を退職するときにとるべきアクションを、段階ごとにわけてお伝えします。社会人としてモラルを守りつつ、退職トラブルを未然に防いでいきましょう。
会計事務所を辞めるステップ①:理想は円満退職
辞める際は社会人として、責任をはたして円満退職とするのが理想です。
とくに税理士志望の方の場合、税理士登録する際に在職証明書などが必要になります。
辞めたとしても前職へのコンタクトが必要になりますので、なるべく関係を悪化させない形で退職しましょう。
会計事務所を辞めるステップ②:退職を伝える時期は?
次に退職を伝える時期ですが、まず避けたいのは繁忙期である2月3月や5月。たくさんの業務で職場が慌ただしい時期ですので、引き継ぎで混乱します。
さらに繁忙期に辞めると事務所からは「仕事を投げ出した」、同僚からは「忙しい時期に仕事を押し付けられた」と恨みを買う可能性も高いです。
いずれにしても円満退職とはほど遠い結果になりかねないので、繁忙期の退職は避けるのが無難です。
また、転職先が会計事務所などである場合、繁忙期に転職するとご自身も苦労する可能性が高いです。転職先でいきなり所得税の確定申告や法人決算を大量にこなすことが考えられます。
転職先で社内の人員・基幹ソフト・チェックフローなどを把握する前に、繫忙期に突入するのは避けたいところ。
ただし、パワハラなどひどい労働環境が原因で退職する場合、遠慮は不要です。理不尽な環境に耐える義理はないので、繁忙期であっても自分自身を守るために迷わず退職しましょう。
話を戻しますが、退職時期についてより具体的な時期については、民法627条では2週間前に退職を伝えることとされています。
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
引用:民法627条
ただし、社会的な常識や引き継ぎを考えると1か月前には伝えるのがスマートでしょう。なお、その事務所の就業規則に「退職は〇か月前に伝えること」とあったとしても、就業規則より民法のほうが法律上優先されます。
トラブルを避けるためには就業規則に記載された時期を守るべきでしょう。しかし事務所が要求する、退職を伝える時期があまりに理不尽と感じる場合には、必ずしも守る必要はないといえます。
会計事務所を辞めるステップ③:退職の意思を伝える
次に退職を伝える方法ですが、まずは直属の上司を会議室などに呼び出して1対1で退職の意思を伝えます。
退職の際には引き継ぎなど他の人への影響があります。まずは直属の上司のみに伝えましょう。そのうえで具体的な退職時期や引き継ぎ方法などについて、協議していくことになります。
上司より先に同僚などに言うと、周囲に話がもれてややこしくなることも。直属の上司にまず伝えるようにしましょう。
なお上司に退職の意思を伝える際には、退職理由を聞かれることが多いです。
退職理由については必ずしも正直に答える必要はありません。事務所にとっては退職理由を真摯に受け取り、組織を改善するチャンスですが、なかには感情的に批判してくる人もいます。上司が信頼できる人でなければ、適当な理由でお茶をにごすのもありでしょう。
会計事務所を辞めるステップ④:退職願の作成
退職の意思が承諾されると、退職願を提出するよう求められることがあります。口頭での退職の意思表示だけでも有効ですが、お互い「言った言わない」にならないためにも文書で確認するとトラブルが避けられます。
退職願の主な作成ポイントとしては次のポイントを参考に書きましょう。
- あて名は上司か事務所の代表
- 文書を作成した日付を記載する
- 「~日付で退職」といった形で退職する日付を記載する
- 退職の理由は「一身上の都合により」と記載する
会計事務所を辞めるステップ⑤:引き継ぎ・顧問先へのあいさつ
退職に向けて同僚へ業務の引き継ぎ、顧問先へのあいさつを行います。とくに引き継ぎについては会計処理の特徴、過去2・3年分の税務処理の経緯や根拠、資料の保存場所などはきちんと伝えておきましょう。
もし同じ業界内にとどまるのであれば、前職の人と付き合いが続くことも意外とあります。退職に際してお互い気分の悪いことにならないように、気配りを忘れないようにします。
会計事務所を辞めるステップ⑥:退職時に有給消化はしていい
ここまで退職の準備を進めたら、有給消化も検討しましょう。なかには忙しく働いていたため、しばらく有給休暇がとれなかった人もいると思います。
退職時に貯まった有給を消化することは、決して後ろめたいことではありません。なぜか税理士業界のなかには労務関係のコンプライアンス意識が吹き飛んでおり、退職時の有給消化を認めない管理職もいます。
実際に私もかつて税理士法人を退職する際に有給休暇を申請して
「休むくせに給料をもらうつもりか!」
とすごんできた上司がいました。法人を代表するような立場の人だったので、発言にとても驚いた覚えがあります。(そのときは法的根拠と労働基準監督署を引き合いに出し、何とか有給を取得しました)
仮に退職の際に有給消化を拒んで来た場合は有給申請をした書面を保存し、対象日に出社しなければよいだけです。もし給料が支払わなければその書面をもって対応すればよいでしょう。
会計事務所を辞めるステップ⑦:退職前に転職先は決めておく
大事なことですが、基本的に退職前に転職先は決めておきましょうただし過労やパワハラなど、心身が危険ですぐに逃げたほうがよい場合はすぐ辞めるのも一手です。
退職前に転職先を決めておきたい理由は2つ。
1つは退職後に条件にあった仕事が見つかるとは限らないため。在職中で仕事を続けられる状況であれば、今は条件に合う求人がなくても時期を改めることで、新たな求人が出る可能性があります。
2つ目の理由はもし退職後に条件にあう求人がなかった場合、空白期間が発生する懸念があります。会計事務所などは「手に職」系の仕事なので、空白期間はそこまで大きなマイナスにはなりません。それでも減点要素はないほうが好ましいでしょう。
在職中は忙しいので、転職エージェントをうまく利用するなどして、転職活動を進めていきましょう。
会計事務所からの転職を成功させるために必要なこと
最後に転職を成功させるために必要なアクションについて、実際に私がやったことをもとに簡単に説明します。
会計事務所からの転職を成功させるコツ①:退職の意思を強く持つ
一番大事なことは現状の強い不満を解消するため、あるいは自己実現のために「辞める」「転職する」と意思を固めること。
在職中の転職活動は就業後や土日にやるので、体力的にも楽ではありません。平日の夜に転職先の調査や書類の準備をしたり、面接に行ったりするので仕事とのスケジューリングも苦労します。
さらに転職時の面接でも退職の意思を聞かれますし、現職を辞めるときも引き止めにあうでしょう。
自分の中で「辞める」という意思の軸がなければ、周囲に流されてしまう危険があります。きちんと自らの「辞める」そして「こういう働き方をしたい」という意思を固めておきましょう。
会計事務所からの転職を成功させるコツ②:できることを整理する
転職活動の第1歩はご自身の経験・スキルの棚卸しから始めます。
企業にアピールする資格やスキル、経験を洗い出しましょう。たとえば税理士試験の科目合格は広くアピールになります。
とくに事業会社の経理財務に転職する際は、簿記論・財務諸表論・法人税・消費税などに合格しているとアピールになるでしょう。
スキルや経験については転職先とのマッチングが重要になりますが、一例を挙げると次のようなものがあります。転職先候補の会計事務所や企業の事業内容・求人票をよく見てアピールできる点を確認します。
- 法人の担当先数や事業規模(売上や課税所得)の実績
- 簿記やエクセルに長けており、即戦力として活躍できる
- 経理フローの構築・改善経験があれば子会社立ち上げのスタートアップ人員として活躍が見込める
- 各種申告書作成の経験があれば、経理財務職で広く役立つ
- 国際税務・移転価格税制などは国際企業の専門ポジションに直結
- 特定業種の顧問経験があれば、転職先の企業との親和性をアピールできる
スキルや経験の整理が終わったら職務経歴書に書き出していきます。
人事担当者は毎日多くの職務経歴書を読んでいるので、箇条書きで書いたり、書く順番に気を付けたりして読みやすいものに仕上げましょう。
会計事務所からの転職を成功させるコツ③:今後のキャリアプランで重要な条件を洗い出す
キャリアプランにおいて重要視する条件も確認しておきます。
- 報酬が高いところがよい
- ワークライフバランスを重視する
- 専門家として成長できる環境がよい
- 一緒に働く人や職場環境が大事
などなど、人によって価値観はさまざま。
自分が重要視する条件についても洗い出しておきます。
会計事務所からの転職を成功させるコツ④:忙しい人・自信がない人ほど転職エージェントの利用がおすすめ
すでにお伝えした通り、在職中の転職活動は体力的にも楽ではありません。また、「辞めたい」と思っていても転職先が見つかるか不安な方もいるでしょう。
そのような人には転職エージェントの活用がおすすめです。
転職エージェントを利用するメリットは
- 1人で行うより情報収集が広く行える
- 担当者が求職者の希望をヒアリングして最適な転職先を提案してくれる
- 自分が働いている時間にエージェントが転職先を探してくれる
- 職務経歴書の書き方や面接対策の指導を受けられる
- 給与の相場観を知っているので、給与交渉でも頼もしい
これらのものが挙げられます。
とくに一人で初めての転職活動をする場合は不安も多く、自分自身の市場価値が不明な場合が多いです。エージェントからのアドバイスや提案が思わぬ切り口になることもあるので、積極的に活用しましょう。