社会人にとって会計は普遍的なスキルの1つと言われています。中でも決算書は外部の情報を与えてくれる有効なツールの1つです。
「決算書を読めばその会社の姿が理解できる」という話は誰しも聞いたことがあるでしょう。決算書を読むことで収益性や財務体質などがわかり、経営や事業戦略などを一歩踏み込んで理解できるためです。
決算書が理解できれば、企業の財務や経営企画の担当者だけではなく、就活や転職など人生でも得するシーンは少なくありません。
ですが、いざ決算書を読もうと思っても、100ページにもおよぶ有価証券報告書が立ちはだかり、慣れない人にはややハードルの高い作業となってしまいます。
そんな「決算書が大事なのはわかっているけど始められない」人へ向けた本が、今回紹介する『決算書の比較図鑑』です。
決算書は図解でざっくりと理解する
『決算書の比較図鑑』は、決算書を読むことに慣れていない人に向けて、大まかな読み方のポイントを伝えています。とくに実在する有名企業のビジネス実態や事業戦略などを交えて、決算書を図解で説明してくれているため、簿記の知識がなくても内容を簡単に理解することができるでしょう。
決算書を読み解くというと、とにかく難しいイメージがあります。だからこそ、まずは図を見ながら全体の概要を「ざっくり」理解するところからはじめられる当書は、決算書を読むことに慣れていない人にぜひ読んでもらいたい一冊です。
50社分の決算書を比較できる
当書では、およそ50社以上の決算書の比較・分析を行っています。1社1社を丁寧に見るというよりは、図解で概要をつかんだうえで、たくさんの会社を見ることを目的としています。
なぜ、たくさんの会社を見る必要があるのでしょう。
決算書の読み方にはコツが必要です。会計のルールを習うことはできても、このコツは、たくさんの会社を見て、経験を積まなければ正しく読み解くことができません。たとえば、スポーツでルールはすぐ覚えられても、実際にプレイしないとうまくならないように、さまざまな決算書を読むことで、はじめて見る目が養われるというわけです。
とくにベテランの会計士や税理士は、決算書を通じて驚くほど早くビジネスの違和感やポイントを理解するため、経験の差が如実にでます。
通常たくさんの決算書を読むためには、自ら資料を集めなければなりませんが、本書では多くの企業を図解で理解できるので、時短という面でも大きなメリットがあります。
おすすめの人① 就活生や転職希望者
決算書を読むコツをおさえておくと便利なのが、就活や転職のとき。
企業の求人票やHPにはその企業がアピールしたいことが中心に載っています。逆にネガティブな内容については触れておらず、業績好調のように見えても利益が出ていない、ということはよくあります。
決算書を読むことができれば、表に出ている情報だけに惑わされず、しっかりと企業の実態を理解することが可能です。
また、メリットはそれだけではありません。決算書が読めることによって競合他社との比較分析にも役立てることができます。決算書を読み解き、競合との優位性や収益性を比較することで、より説得力のある志望動機にも落とし込めます。とくに人気企業ほど選考は厳しく、スキルだけでなく志望動機や人柄など総合的に見られます。他の求職者とはひと味違うということをアピールするためにも、企業理解を深める足がかりとして決算書は読めるようにしておくとよいでしょう。
おすすめの人② 起業家候補や事業企画担当
当書は新しいビジネスを作りたい起業家や、事業企画を担当している人にもおすすめできます。
決算書を理解できると、ビジネスの根幹である「誰をお客さんにするか」というポイントが理解でき、新しく事業を作る際のヒントになります。
似たようなビジネスであっても誰からどのようにお金をもらうかで、収益モデルが変化します。事業を作る際のマネタイズの部分で大きな影響があるでしょう。
たとえばイタリアンファミリーレストランのサイゼリヤと、カレーで有名な壱番屋では、同じ外食産業ですが収益源が異なります。
サイゼリヤは食事をする顧客が収益源で、自社で食材生産や加工などを行うことで原価を抑え、利益を得ています。
一方で、壱番屋の収益源は食事をする顧客よりFC(フランチャイズ)オーナーが中心。当書では壱番屋はFC店へノウハウ等を提供する代わりに、食材の卸売をして利益を得ていることが示されています。
このように一見同じ飲食ビジネスのように見えても、決算書を分解することで異なる収益源や戦略を発見できます。
このような収益モデル発見の積み重ねがビジネスパーソンとしての感覚を鍛えてくれるでしょう。とくに新規ビジネスを作りたくてアイディアはあるけれど、数字に弱く、事業計画に落とし込めない人こそ決算書を読むことで見る目が養われます。
「決算書の比較図鑑」はビジネス脳をトレーニングする一冊!
『決算書の比較図鑑』を読み終えると、多くの企業の収益モデルを触れることになります。
誰からお金をもらって、どのように利益を出しているのか、概要に触れるだけでも本当に勉強になります。
また本書の構成として、5~6ページで内容が完結するため、どこから読み始めても理解できます。数字に苦手意識がある人は、自分の好きな企業やサービスなど、気になった企業から読み始めてもいいかもしれません。
くわえて、著者の矢部謙介教授は経営分析などの専門家です。教授職である一方で、前職ではコンサルティングファームで経営コンサルタントとして活躍した経歴もあり、「実務経験のある教授」といえます。この1冊があれば、知識と経験を兼ね備えた教授のセミナーをどこでも、何度でも聴くことができるのですから、かなりお得な一冊といえるでしょう。
『決算書の比較図鑑』はサクッと読むことができ、ビジネスの脳トレにもなる一冊です。就活中の大学生をはじめ、広く社会人におすすめです。