近年、終身雇用制度が薄れてきたことや働き方改革などにより、転職が以前より盛んになっています。現在転職を考えている人のなかには、非上場企業と上場企業のどちらに転職するべきか、悩んでいる人は多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、非上場企業と上場企業について、それぞれの違いや働くうえでのメリット・デメリットなどを紹介します。現在転職を検討している人や、今後の転職を視野に入れてキャリア設計している人はぜひ参考にしてください。
上場企業とは
はじめに、「上場」の定義を整理しながら、上場企業の特徴を見ていきましょう。
上場企業の特徴
上場とは、証券取引所に株式を公開し自由に売買できるようになることです。そして、上場企業とは、公開している株式を発行している企業のことを言います。
また、株式を保有している人のことを株主と言います。株主は、株式の所有数に応じて企業の経営に参加する権利を持てるため、上場企業は、経営者以外の人物が企業経営に関わる特徴があるのです。
なお、日本には下記4か所の証券取引所があります。
- 札幌
- 東京
- 名古屋
- 福岡
このなかでも、国内最大の規模を誇っている証券取引所が、東京証券取引所です。東京証券取引所には、下記の市場があります。
- 東証一部
- 東証二部
- マザーズ
- JASTAQ
上場企業は厳しい審査をクリアする必要がある
株式を一般公開することで、多くの一般投資家が株主となります。そこで、投資家を保護する観点から、証券取引所に上場するためには、厳しい審査基準をクリアする必要があるのです。
上記で紹介した東京証券取引所のうち、もっとも審査が厳しい市場が、東証一部です。東証一部への上場には、下記の基準を満たす必要があります。
- 株主数:800人以上
- 流通株式数:2万単位以上
- 流通株式時価総額:100億円以上
- 事業継続年数:3年以上
- 連結純資産の額:50億円以上
- 直近2年間の利益総額が25億円以上または直近1年間の売上高が100億円以上かつ時価総額1,000億円以上など
引用:「上場審査基準|JPX日本取引所グループ」
上場するためには、株主数や利益、時価総額などにおける厳しい基準が設けられています。そのため、日本国内の企業のうち、上場企業は1%未満しか存在しません。
上場企業は、これらの厳しい審査を突破していることから、規模が大きく、社会的信用が高いことが特徴です。
非上場企業とは
ここからは、非上場企業の特徴を見ていきましょう。
非上場企業の特徴
非上場企業とは、証券取引所で株式を公開していない企業のことです。現在日本国内にある企業のうち、99%以上が該当します。
外部から企業経営に関わる人がいないため、経営陣の考えが組織に大きく影響することが特徴です。
非上場だが大企業もある
上場させるかどうかは、企業側の自由です。そのため、株主に左右されずに高い自由度のもと企業経営をしたい、などの理由から、大企業でも上場していないケースがあります。
例として
【非上場の大企業の例】
- 日本郵便
- サントリー
- 竹中工務店
- 佐川急便
- 朝日新聞社
- ロッテ
などがあげられます。
「上場企業=規模が大きい企業」が成り立つ一方で、「非上場企業=規模が小さい企業」はかならずしも成立しません。あくまで、非上場企業は、株式を一般公開していない企業であるという点を理解しておきましょう。
上場企業に転職するメリット・デメリット
ここからは、上場企業に転職するメリット・デメリットを見ていきましょう。あらかじめ理解しておくことで、転職後のミスマッチを防ぐことにもつながります。
なお、すべての企業に当てはまるものではないため、あくまで全体的な傾向として、転職先を検討する際の参考にしてください。
上場企業に転職するメリット
上場企業のメリットには、株式を公開していることや厳しい審査をクリアしていることが大きく影響しています。
はじめに、上場企業に転職する利点を詳しく見ていきましょう。
上場企業に転職するメリット:年収アップを狙いやすい
上場企業は、全体的に給与や賞与が高く設定されており、転職による年収アップを狙いやすいといえます。
これは、株式を証券取引所で公開しているため、資金調達の手段が豊富であることが理由です。また、利益や時価総額などの厳しい基準をクリアしていることから、予算規模が大きく、人件費にかけられる費用も大きくなります。
さらに、休暇や手当、助成などの福利厚生も充実している企業が多いです。近年は柔軟な働き方が重視されていることから、従業員のワークライフバランスを充実させるためのユニークな福利厚生が増えています。転職先を検討する際には、福利厚生にも注目してみることがおすすめです。
上場企業に転職するメリット:社会的信用が高い
上場企業の多くはネームバリューがあり、さらに倒産のリスクが低いことから、企業自体の社会的信用が高いことが特徴です。おのずと、上場企業で働いていることで、従業員自身の社会的信用にもつながります。
ローンを組むときやクレジットカード作成の審査など、社会的信用が必要となるさまざまな場面で有利となるでしょう。
上場企業に転職するメリット:大きなプロジェクトに携われる
上場企業は資金が豊富なことから、プロジェクトに投じる予算の規模が大きいことが特徴です。そのため、社会の仕組みに関わるような大きな事業に携われる点もメリットといえます。
なかには数億円が動くビジネスもあります。大きなプロジェクトを動かしたい人は、上場企業の仕事にやりがいを感じるでしょう。また、実績や経験を今後のキャリア設計にも活かすことができます。
上場企業に転職するメリット:今後の転職時に有利に働きやすい
上場企業での経歴は、転職時に有利になる傾向があります。特に書類審査では職歴が重視されるため、「この人のこれまでの働きぶりや能力を知りたい」「どのような人物なのか知りたい」と関心を持ってもらいやすくなるでしょう。
また、上場企業には優秀な人材が多く集まる傾向があります。かならずしも上場企業=優秀な人材ではありませんが、能力面でも転職先から期待をかけてもらえる可能性は高いでしょう。
今後のさらなるキャリアアップを狙っている人は、上場企業への転職によるメリットは大きいといえます。
上場企業に転職するデメリット
上場企業への転職には、労働者にとってマイナスになりうる点も存在します。転職にあたっては、デメリットを理解しておくことも重要です。
ここからは、上場企業に転職するデメリットを見ていきましょう。
上場企業に転職するデメリット:採用倍率が高い
上場企業は、上記のメリットを持っていることから総じて人気が高いうえに、上場している企業の数自体が少ないため、採用倍率が高い傾向です。
選考過程も複雑であることが多く、狭き門を突破して内定を得るためには、入念に選考への対策をしなければいけません。
そのため、選考にあたって労力を費やすことになり、疲弊してしまう可能性があります。また、競争率が高いことによる精神的なプレッシャーも大きくなるでしょう。
※履歴書や職務経歴書の作成について詳しく知りたい方は、こちらを参考にしてください。
上場企業に転職するデメリット:利益を生むプレッシャーがかかる
上場の基準を維持しなければならないため、常に一定以上の業績が求められます。さらに、上場企業は、経営状況を定期的に公開する必要があることから、業績が悪化すると社会的信用の低下にもつながるのです。
そのため、従業員には常に利益をうみだすプレッシャーがかかります。業績をあげることがモチベーションになる人もいますが、一方で、精神的負担になり体調不良などを起こす人がいるのも実情です。
上場企業に転職するデメリット:買収のリスクがある
株式が自由に売買されることで、企業が買収されるリスクがあります。
買収元や買収の方法によっては、これまでより待遇が下がることや事業内容が変わることがあります。それまでの体制に満足していた人を中心に、買収のタイミングで組織を離れる人は多いです。
非上場企業に転職するメリット・デメリット
非上場企業にも、転職するうえで魅力的なメリットや、あらかじめ理解しておくべきデメリットがあります。
見出しごとに詳しく見ていきましょう。
非上場企業に転職するメリット
非上場企業に転職するメリットには、企業規模が大きすぎないことや企業経営が株主の意見に左右されないことが影響しています。
こちらも全体の傾向であるため、すべての企業が該当する訳ではありません。あくまで参考としてご覧ください。
非上場企業に転職するメリット:採用倍率が低い
非上場企業は、上場企業よりも全体的に採用倍率が低い傾向にあります。そのため、転職を確実に成功させたい人は、非上場企業を中心に転職先を検討するとよいでしょう。もちろん、人気が高く高倍率な企業もありますが、事前に吟味すれば競争率が低い求人が見つかります。
非上場企業に転職するメリット:新しいことに挑戦しやすい
非上場企業は、上層部と従業員の距離が近いことで風通しがよくなり、意見を言いやすい雰囲気があります。また、外部から企業経営に携わる者がいないため、従業員の意思が組織に反映されやすくなるでしょう。
上場企業であれば、すでに社会に浸透している事業が多いことや企業規模が大きいこと、組織の意思決定に株主が影響することから、新しいことに挑戦することが難しいケースがあります。
非上場企業に転職するメリット:じっくり仕事に取り組める
非上場企業は、上場企業に比べると従業員に対しての利益を生むプレッシャーが弱い傾向にあります。また、従業員間によるポジション取りの競争も少ないため、自分の業務に集中しやすい環境であるといえるでしょう。
落ち着いた環境でじっくり仕事に取り組みたい人や、競争による激しい人間関係が好ましくない人は、非上場企業を中心に転職を検討することがおすすめです。
非上場企業に転職するデメリット
次に、非上場企業に転職するデメリットを見ていきましょう。
非上場企業に転職するデメリット:収入や福利厚生は上場企業に劣る
非上場企業は、資金調達の方法が限られるため、収入や福利厚生などの待遇面が充実していない場合があります。
ただし、求人を選べば、非上場であっても好待遇の企業に転職することは可能です。転職にあたっては、求人情報などから収入や福利厚生について確認するようにしましょう。
非上場企業に転職するデメリット:経営者が暴走しているケースがある
非上場企業には株主が存在しないため、外部から経営に携わる者がいません。そのため、経営者が間違った判断をしたときに止められないケースがあります。
結果として、企業が私物化し、利己的な経営がおこなわれている場合もあるのです。希望する企業がこのような状況になっていないか、事前に口コミや転職エージェントなどを通して確認するとよいでしょう。
非上場企業に転職するデメリット業務フローが定まっていない場合がある
非上場企業のなかでも、設立から数年の若い企業は、業務フローや社内制度が整っていない場合があります。
そのため、マニュアルにのっとって堅実に仕事をこなしたい人は、業務フローが決められていないことがストレスに感じる可能性があるでしょう。
ただし、これから体制を整えていくという意味では、やりがいや面白みを感じる部分でもあります。組織の根幹から携わりたい人にとっては、この点がメリットになりうるでしょう。
上場企業や非上場企業への転職を成功させるポイント
理想とする企業への転職を成功させるためには、ポイントを押さえることが重要です。
ここからは、転職成功率を高めるための3つのポイントを紹介します。
上場企業や非上場企業への転職を成功させるポイント:人材紹介サービスを利用する
自分の希望にあった企業に転職するためには、人材紹介サービスを利用することがポイントです。
人材紹介サービスでは、プロのアドバイザーが丁寧なヒアリングのうえ求人を探してくれるため、希望に合った転職先を探しやすくなります。
また、書類作成や面接練習などの選考対策から、条件交渉、さらには内定後のアフターフォローまでしてくれるサービスもあり、初めて転職する人でも不安なく転職活動を進められるでしょう。
最近は、特定の分野や業種に特化した人材紹介サービスも多くなっています。各分野ごとに豊富な求人が取り扱われており、自分に合ったサービスを利用することで、転職の選択肢が広がるでしょう。
上場企業や非上場企業への転職を成功させるポイント:上場・非上場にこだわり過ぎない
転職先を決める際に、上場・非上場にこだわり過ぎると、転職後のミスマッチを起こしやすくなります。
たとえば、ネームバリューや待遇の良さだけを重視して上場企業を選んでも、あとから「これは自分のやりたい仕事ではなかった」と不満を抱く可能性が高いでしょう。
仮に転職先を短期間で辞めた場合、もう1度転職活動するための手間とコストがかかります。また、転職を繰り返していることは、経歴面でもマイナスにとらえられやすい傾向があるのです。
待遇や社風、ビジネス内容など、転職で実現させたいことに優先順位を決めるのは大切ですが、上場・非上場はあくまで判断材料のひとつとしましょう。
上場企業や非上場企業への転職を成功させるポイント:キャリア設計を立てる
転職にあたっては、キャリア設計が重要です。将来的に自分がどのようなキャリアを歩みたいのかを明確にすることで、転職に求めるものが見えてきます。おのずと、転職先も選びやすくなるでしょう。
また、求めるものをはっきりさせたうえで転職先を選ぶことで、入社後のミスマッチを防ぎ、やりがいを持って働くことができます。
さらに、将来的なビジョンを持っていることで、面接での受け答えにも一貫性が出ます。そのような姿勢を採用担当者から高く評価してもらえるでしょう。
上場企業と非上場企業の特徴を理解したうえで転職を進めよう
上場企業は、厳しい審査基準をクリアしたうえで株式を公開している企業のことで、国内全企業のうち1%未満です。
非上場企業は株式を公開しておらず、全国的に有名な企業のなかにも、上場していない企業があります。
上場企業と非上場企業、それぞれに特徴があるため、事前に把握したうえで、転職先の選択に活かしましょう。その際は、人材紹介サービスの利用やキャリアビジョンを明確にするなど、本記事で紹介したポイントを押さえてください。