経理・税務

会計事務所は残業が多い?理由と対策について解説

会計事務所は残業が多い?理由と対策について解説

会計事務所・税理士法人は一般企業と比べて残業が多いと言われています。実際のところはどうなのか、そして原因と対策はどのようなものがあるのか、お伝えしていきます。

著者は大手税理士法人など2つの税理士法人を延べ6年半経験してきました。業界未経験の方にもわかりやすくご説明します。

会計事務所は残業が多い?平均の残業時間は?

「会計事務所は残業が多いか」という疑問については、業界全体としてやや多いほうにあるといえます。業界としては繁忙期と閑散期がはっきりしていますので、年中残業が多いというよりは、とくに繁忙期に残業が集中します。のちほど詳しく説明しますが、税理士という業態上、残業が発生しやすい側面があるといえるでしょう。

会計事務所の繁忙期は2月・3月と5月

まずもっとも残業が発生しやすい、業界の繁忙期についてです。

税理士業界がもっとも忙しいのは個人の確定申告が控えた2月と3月、加えて法人の確定申告が多い5月。ついで法定調書と償却資産税申告書の作成がある1月と年末調整のある12月も忙しい時期です。

税務関係の年間スケジュールと繁忙期

これらの繁忙期についてはどうしても残業が多くなってしまいます。逆に繁忙期を過ぎた6月から11月にかけては閑散期となり、業務に比較的ゆとりが出やすい時期。有給消化などもこの時期にされやすいです。

次になぜ残業が発生するのか、よくある理由についてご説明します。

 

会計事務所に残業が多い理由:確定申告時期は普段の業務プラス申告業務で忙しい

繁忙期と呼ばれる2月3月5月では通常の業務や顧客対応に加えて、申告書の作成業務などがあるため、かなりの業務負担があります。

普段の顧客訪問が終わって5時過ぎに事務所に戻り、それから申告書の作成を行うことが多いため、どうしても帰りが遅くなってしまいます。しかもそれだけでは仕事が終わらないことが多いので、土曜日に出勤することも。確定申告は「納期限」という絶対の締め切りがあるので、遅れるわけにはいかず、各担当者にはプレッシャーもかかります。<

 

会計事務所に残業が多い理由:会計事務所は「サービス業」

繁忙期以外でも顧客対応で忙しくなることもあります。会計事務所の本質はサービス業であるので、顧客の要望があればなるべく答えて報酬を得ようと考えます。

たとえば顧客が新規事業を行うにあたり、補助金をとりたい、設備投資に伴って税額控除を受けたい、などの要望があれば申請を代行することも。

そのようなスポット案件があれば、通常業務と並行してこなすことになるので、担当者は忙しくなりがちです。

 

会計事務所に残業が多い理由:営業力が高いと案件が増える

事務所の営業力が高かったり、顧客から新しい顧客の紹介があったりすると案件数はどんどん増えていきます。一般的に事業拡大するときは顧客数が増えてから従業員数を増やすので、案件拡大中の事務所はどうしても人手不足で忙しくなりがちです。とくに会計事務所の代表が若く、どんどん営業を頑張るタイプだと成長も著しいことがあります。

ただし、顧客の紹介で案件を伸ばせる事務所はそれだけ顧客がサービスに満足しているともいえるので、優秀な事務所ともいえます。

 

【会計事務所のリアル】繁忙期の残業時間は月50~100時間

では繁忙期の残業時間はどれくらいなのでしょうか?事務所のカラーや担当者の能力によってさまざまですが、私の今までの経験上、もっとも忙しい2月での、周りの人の残業時間はひと月あたり50~100時間ほどの幅でした。

平均すると一日2~3時間ほどの残業をしている人や、休日に出勤して確定申告を進める人が多いイメージです。なかには恐ろしいほどたくさんの仕事を任される人もおり、その人の残業時間は150時間を超えていました。

その人の例は極端な例で、最近は会計事務所でも過度な残業は社員の離職の原因となるため、繫忙期であっても22時前に退職をうながすなど、残業時間を少なくする試みをしているところも多いです。

 

残業の多い会計事務所の特徴を3つ解説!

確定申告など、業界の繁忙期は避けて通れないもの。それでも残業を少なくしている会計事務所もあれば、毎月たくさんの残業時間が発生している事務所もあります。残業の多い会計事務所にはどのような特徴があるのでしょうか。

残業の多い会計事務所の特徴:定着率が低く、常に人を募集している

残業の多い会計事務所は労働環境の悪さから、退職が相次ぐため、社員の定着率が非常に悪いです。そのような事務所は人が定着しないため、常に求人の募集をかけています。

もちろん業務拡大や欠員が出たために求人をするのはどこも一緒ですが、人を採用できればそこで募集を締めきるのが一般的。いつHPを見ても人を募集しているところはよほど業績が好調か、人が定着していないかのどちらかでしょう。

 

残業の多い会計事務所の特徴:社内の情報共有がない

残業が発生しやすい原因のひとつに業務の情報共有があります。新人に対する指導もノウハウという情報共有ですし、ほかにも業務の引き継ぎなど、正しく情報共有がされていないと、業務を進めるにあたって時間がかかってしまいます。

とくに情報共有がうまくない事務所は先輩が後輩の面倒を見る風土がなかったり、IT化が遅れていたりと、原因はさまざま。

外部から判断するのは難しいですが、気になる人は面接で普段の引継ぎ方法を聞いてみたり、業務指導のやり方について聞いてみたりしても良いでしょう。

 

残業の多い会計事務所の特徴:深夜に電話すると人が出る

これはかつての同僚が転職先のワークライフバランスを確認するため、やっていた方法です。

どんなに事務所のHPでワークライフバランスの良さを語っていたとしても、実態の確認はなかなか難しいもの。そこで、繁忙期以外で夜10時くらいに電話をかけてみて、誰も応答しなければ全員帰っていると判断し、誰か応答すれば「遅くまで人が残っていて残業が多そう」と判断していたようです。

会計事務所での残業を減らすコツを法人・個人別に解説!

繁忙期は残業が多いのは事実ですが、嘆いていても仕方がありません。税理士法人時代に周りの人たちがやっていた、効率的に進める仕事のやり方についてもご紹介します。

会計事務所での残業を減らすコツ(法人編):月次の時点で税務論点を整理&リストアップしておく

法人の決算・申告業務の場合、申告調整が重要な業務になります。そのため、毎月の月次決算において論点になるものがないか確認を済ませ、確認した事項をリストアップしておくと、決算時に再び検証する手間を省けます。

とくに交際費や寄附金などは他勘定科目に紛れ込みやすいので、毎月の月次で仕訳番号とともに別表調整するものをリストアップしておくことが重要です。

 

会計事務所での残業を減らすコツ(法人編):情報はオープンにしてムダをなくす

確認事項は情報としてオープンにしておきます。とくにひとつの会社を複数人で担当する場合などはお互い情報を共有して、作業の重複やムダを省きます。情報共有にはスプレッドシートやクラウドデータの活用などが一般的。

情報をオープン化しておくと、引き継ぎの際にあらためてデータを渡す必要もなくなるので、担当者間での引き継ぎもスムーズになります。

 

会計事務所での残業を減らすコツ(個人編):65万円控除は秋の時点で入力しておく

次に2月3月の確定申告での話です。確定申告でとくに負担になるのが事業所得で65万円(55万円)控除をとろうとする人。毎月の訪問や資料収集が出来ていれば良いのですが、中には毎月訪問する契約ではない人もいます。そういった人を1年間放っておくと、年末~年始にまとめて入力することになるので、かなり大変です。

しかもそういった人に限って不明点が多く、確認に時間がかかったりすることもあります。9月頃の閑散期に一度資料を集めて、半年分ほど会計入力を済ませておくと安心です。

会計事務所での残業を減らすコツ(個人編):年末~年明けには資料収集をはじめる

繁忙期にとくに残業している人のなかには、「お客さんが資料を送ってくれなくて仕事が進まない・・」と嘆く人がいます。何度言っても資料を送ってくれない顧客にイライラする気持ちはわかりますが、資料収集も仕事のうち。

年末から年明けにかけて、顧客に資料を送ってもらうよう、早めにお願いしておきましょう。1月末に資料収集をすませておくのが理想です。

たまにそれでも資料を送ってこないルーズな人がいますので、諦めずに1月中から催促をし続けます。ここで時間がかかると資料収集に時間がかかって、確定申告の締め切りにどんどんずれ込むので、資料をもらうまでメール魔、電話魔になります。

 

キャリアプランに見合った組織を探そう

ここまで会計事務所の残業にまつわる話をしてきました。繁忙期の残業は体力的に大変なうえ、業界的にどうしても発生してしまう側面があります。

このような長時間労働を良しとは思いませんが、キャリア形成の過程ではある程度の業務量をこなすことで実力がつくことも事実です。専門家を目指す以上、多くの案件にあたって正しい税務処理や法令の解釈などを調べ、自らの血肉としていく必要があります。

また、繁忙期の確定申告報酬や決算報酬は事務所にとっては重要な収入源であり、働く人にとってもボーナスの元といえるでしょう。

多くの経験を積める事務所で短い期間にキャリアを形成したいか、ワークライフバランスの整った事務所で長く働きたいかは、それぞれの働く方の価値観によります。ぜひご自身のキャリアプランに見合った事務所をご検討いただけると幸いです。

もしご自身が毎月過労死ラインレベルの残業をし続けている場合には、心と体の健康が壊れる前に転職をエージェントに相談することをおすすめします。

Back Office Magazine
Back Office Magazine編集部ライター鈴木悠
記事の作成者 鈴木悠
Back Office Magazine編集部ライター

「ややこしい話をわかりやすく」をモットーに執筆する編集部ライター。今まで国内最大手を含む税理士法人2社を経験し、税務会計に6年半携わる。年間30超の法人・個人の税務顧問を務め、法人税・所得税・消費税を中心としたアドバイザー業務に従事した。売上100億円規模の企業をはじめ、担当した業種は飲食・製造・卸売り・観光・アパレルなど。税務の本業の傍ら、副業でウェブサイト運営やYouTube運営を経験したのをきっかけに、メディア作りに魅力を感じ現職に就く。

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