経理・税務

簿記1級は転職で本当に有利?転職でのメリットや学び方をわかりやすく解説!

簿記1級は転職で本当に有利?転職でのメリットや学び方をわかりやすく解説!

日商簿記1級は合格すると「会計のスペシャリスト」と呼ばれる資格です。出題範囲が極めて広く、合格率は毎回10%程度しかありません。簿記2級からは「会計学」と「原価計算」が追加され、求められる知識の質と量は3倍以上になります。

一方、保有者が少ない希少資格としての価値は高く、実務と簿記1級のセットで大企業、管理職への求人も狙えます。まずは概要から見ていきましょう。

転職市場における簿記1級の市場価値

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相当な学習量が必要な簿記1級ですが、資格保有者が少なく転職市場では高く評価されます。特に、知識をダイレクトに生かせる大企業や管理部門を整える必要のある新興企業では強いニーズがあります。

簿記1級は大企業の経理転職に有利

簿記1級は、非常に狭き門である大企業の経理職への転職に有利です。

大企業ではビジネス形態や企業形態が複雑なので、経理の担当業務も複数分かれています。

財務部門

固定資産管理や棚卸資産管理、決算業務を行います。子会社や関連会社の決算業務を監査、指導したり、足し合わせて連結決算書を作成したりします。

総務と協力して内部統制監査業務を行ったりもします。

経理部門

原価計算、予算実績分析、設備投資判断といった内部管理会計を担当します。中期や予算の計画を作成したり、経営の判断を会社全体に周知したりして、目標に対して会社の全部門を引っ張る役割を担います。

資金部門

会社の資金繰り、ファイナンスを担当します。会社の資金需要に対し、銀行からの借り入れや自社株、社債の発行などにより適切な資金調達を行います。

簿記1級はどの分野の知識も持ち合わせていますので、大企業の中でどの部署に配属されても力を発揮することが出来ます。

求人部門に対しての実務経験が不足していても、経理全体の実務経験と簿記1級の資格で業務遂行能力を証明することが可能です。

業態や年齢にもよりますが、一般的に中小企業と大企業の年収格差は100万円程度あります。大企業への転職は大幅な年収アップにつながる可能性があります。

簿記1級はベンチャー企業への転職にも有利

ベンチャー企業などが順調に成長し、成長期や成熟期に入った段階では、組織やお金を管理する仕組みが必要になります。経理の知識全般を備える簿記1級の資格は、こういった急進している企業への求人でも高く評価されます。

ビジネスが成長軌道に乗ると、人や組織、事業部門が増え、全体を統括する仕組みが必要になりますが、新興企業では、既存の人員ではマンパワー、スキルの観点から対応出来ない場合があります。

経理業務においても、事業の成長に伴い、処理する案件が多様化し取り扱う金額が増えてきます。誰がやっても同じように処理が出来るよう業務を定型化したり、不正が起こらない仕組みを構築したりしなければいけません。

資金調達のため、株式を上場した場合は、ステークホルダーへ向けて四半期毎に報告書を作成するなどの業務も発生します。

管理部門の立ち上げに類するハードな業務ですので、簿記1級レベルの見識が求められます。また創業経営者の勘だけでは事業の成長を維持できなくなるので、管理会計を導入したり、損益分析を行ったりして、現状の課題を把握する必要が出てきます。

このような急進する企業の求人では、自社にはない知識を持っている人材として簿記1級取得者は高く評価されます。

経理の管理職としてはもちろんですが、幹部社員として経営者のサポートを行うことも期待されます。

簿記一級から士業への転職も

士業へのキャリアアップも一つの選択肢です。簿記1級の知識は国家資格である税理士、公認会計士、中小企業診断士の受験科目に深く関わります。1級で得た知識を活用し、難関資格へ最短合格を目指すことが可能です。

税理士

税理士とは、税務に関する専門家で、法律で定められた国家資格になります。税理士だけが行うことができる業務として、税務代理、税務書類の作成、税務相談があります。また付随して、記帳代行や税務、経営全般に対するコンサルティングやアドバイザー業務などを行います。

試験は簿記論、財務諸表論の2科目が必須、所得税法、法人税法、相続税法、消費税法または酒税法、国税徴収法、住民税または事業税、固定資産税のうち3科目を選択し、合計5科目に合格する必要があります。科目は1つずつ合格すれば良いのですが、5科目合格まで平均3から5年程度が相場と言われています。

必須2科目の簿記論と財務諸表論は、簿記1級の試験範囲とも重なり、学習時間の短縮が図れます。税理士の試験は受験資格があり、大学等で経済学か法律学を履修した証明が必要ですが、日商簿記1級の合格者は同様の受験資格が与えられます。

税理士の年収は700~800万円程度が多いようです。合格後は、税理士法人や一般企業の経理として決算業務などを行います。クライアントが見込める場合は、独立開業を目指す方法もあります。

公認会計士

公認会計士とは、企業が公表する財務諸表が適正に作成されているかの監査業務を行うことができる唯一の国家資格です。また税理士登録を行えば、税理士業務も行うことが出来ます。

試験合格後、多くは監査法人に勤務しますが、大手企業で企業内会計士として働いたり、独立開業したりするケースもあります。

公認会計士の試験科目は、一次試験にあたる短答式試験で4科目、二次試験にあたる論文式試験で5科目受験します。短答式試験は年に2回あり、合格すれば論文式試験を受験できますが、論文式は年1回しか試験がありません。

短答式試験の免除期間は2年間であり、その間に論文式試験に合格しないと、再度短答式試験に合格する必要があります。

試験には、財務会計論、管理会計論、会計学といった簿記1級がベースの知識にあたる科目があります。簿記1級で基礎を固めてから挑戦することが王道です。

コツコツ合格を積み重ねられる税理士試験と異なり、公認会計士は短答式試験合格による免除期間が2年しかありません。短期決戦の試験ですので、まずは簿記1級で自分の適性を見極めることが重要です。

公認会計士の平均年収は約1000万円と言われており、監査法人でパートナー(運営者)まで昇進すると年収数千万円になります。

簿記1級は転職だけでなく昇進にも有利

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優秀な人材が集まる大企業の経理部でも、簿記1級の取得者は数えるほどしかいません。間違いなく一目置かれる存在になりますし、人事考課でも高い評価を得られ、早い段階で管理職への昇進が期待できます。

日常の経理業務において、簿記1級で学ぶような複雑な会計処理や原価計算を行うことはあまりありません。現在はシステム化が進んでいますので、簿記の知識がなくても普段の業務は実行出来ます。

しかし、公認会計士や税務署の監査では、知識を総動員して相手の質問の意図を読み取り、慎重に回答する必要があります。

また前例のないイレギュラーな会計処理の判断、経理システムの新たな導入といった場面では、会計や原価計算の本質的な意味を理解していないと対応できず、簿記1級ホルダーがキーパーソンとなります。

他部門へ異動しても活躍できる知識

経理部門から他管理部門へ異動となっても、簿記1級の知識は大いに活用の場があります。

管理部門、営業部門、製造部門のいずれであっても、必ず予算編成という業務があります。例えば、人事部門であれば要員計画から人件費を計算しますし、営業部門は販売計画、製造部門はコスト計画を立案します。

全体を取りまとめ損益を計算するのは経理の仕事ですが、簿記1級の知見があれば、先回りして自部門の求められるノルマを想定する経理的センスがあります。自分が所属する部門を上手くリードし、手戻りなく業務を進められる人材として高く評価されます。

CFOなど経営幹部への昇進も

経理財務部門のトップであり、また経営幹部の一員でもあるCFO(Chief Financial Officer)最高財務責任者への昇進も夢ではありません。

企業のグローバル化に伴い、国際会計基準の導入が進んでいます。簿記1級は、連結会計、ヘッジ会計、企業結合などの論点を学ぶので、CFOに必要な素養の一部を身につけることが出来ます。

CFOには経理財務部門の枠を超えて、経営戦略への参画や財務戦略の実行などの役割を求められますので、簿記1級の知識に加え、経営者としての力量も必須です。

そもそも簿記1級とは?

通常、簿記1級とは商工会議所が主催する日商簿記1級のことです。他に全国経理教育協会が主催している全経簿記などがありますが、有名なのは日商簿記になります。

簿記1級のレベルとは、「極めて高度な商業簿記、会計学、工業簿記、原価計算を習得し、経営管理や経営分析を行うために求められるレベル」です。簿記3級は小規模小売店、簿記2級は中規模の製造業とすると、簿記1級は支店や工場を持ち、子会社も複数保有する大企業といったイメージです。

親会社から子会社への売り上げ処理、原油の精製や鉄鋼業の原価計算など大企業では多種多様なビジネスモデルがあり、正しく金額評価するために様々な簿記の論点があります。簿記1級は上記のような複雑なケースの会計処理を学び、加えて経営管理や経営分析に役立つ知識を身に付けます。そのため簿記1級の合格者は「会計のスペシャリスト」と呼ばれるのです。

簿記1級の試験科目

試験科目は、商業簿記、会計学、工業簿記、原価計算の4科目です。試験時間は、商業簿記と会計学を合わせて90分、工業簿記と原価計算を合わせて90分の合計3時間です。

配点は各25点ずつで、合格ラインは70点以上です。ただし1科目でも40%(10点)に満たない科目があると、合計はクリアしても不合格になる「足きり」があります。

受験費用は7850円、毎年6月と11月の2回試験が行われます。各商工会議所で申し込みを行い、指定の場所で受験します。簿記2級は2月にも試験が行われますが、1級はありません。

商業簿記

商業簿記とは、商品を仕入れ、販売する企業活動を記録することです。簿記2級の延長線上にある科目ですが、連結会計、税効果会計などの論点が加わります。質、量ともに増えますが、「正しく仕訳を切る能力」が基本であることは変わりません。

会計学

計算に加え、企業会計原則などの理論問題が出題されます。範囲は商業簿記で重なりますので、計算と理論をセットで学習します。

工業簿記

工業簿記とは、材料の仕入れ、製品の製造、販売する製造業の活動を記録することです。商業簿記と同様、簿記2級の延長線上にある科目です。標準原価計算、工程別総合原価計算など様々な計算方法を学習します。

原価計算

設備投資の意思決定、最適セールスミックス、予算実績差異分析などを学びます。意思決定や管理会計といった経営者視点の論点が多いです。

簿記1級の合格率と学習時間

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簿記1級の受験者数は1回につき概ね1万人、合格者数は約1000人です。合格率は毎回10%程度になります。

もちろん回によって合格率に差は生じており、直近5年では17年11月の5.9%が最も低く、18年6月の13.4%が最も高い合格率となっています。

ただ過去推移から見て常に10%前後になっていることを考えると、70点以上の絶対評価だけで合否が判断されるわけではないようです。科目の平均点にばらつきが大きかった場合は、配点を変更し、結果的に相対評価が取り入れられている、と考えられています。

70点以上はもちろんですが、同じ回の受験者の中で、上位10%に入ることも合格の条件と言えます。

学習時間

学習時間は様々な情報があり、また受験者のバックグラウンドにも大きく左右されるため一概には言えませんが、簿記2級の知識がある前提で、1000時間が一つの目安と考えます。

毎日3時間の学習を継続すると1年間で到達します。簿記2級ではスキマ時間の有効活用や朝活が効果的ですが、それだけで1000時間の達成は困難です。

社会人が平日3時間を確保するのは難しいので、平日2時間、休日5時間程度を割り振る必要があります。合格まで2年計画とすれば、勉強時間は平日1時間、休日3時間の計画になります。

時間は有限資産であり、簿記1級に多くの時間を投資する事は、他の学習や経験の機会を失う事、つまり機会損失が発生することになります。1000時間投資する意味があるのか、1~2年間は時間を捻出することが可能なのかをよく見極めてから挑戦することをお勧めします。

学習方法

学習方法は、市販のテキストを使う独学か、スクールやWeb通信教育を利用するかの2つの方法があります。簿記2級までは独学でも十分合格可能ですが、1級はWeb通信教育などの仕組みを利用することを強くお勧めします。独学では難しいと考えている理由を以下で説明します。

試験範囲が相当に広い

簿記の参考書として有名な「スッキリわかるシリーズ」(TAC出版)で比べると、簿記2級は商業簿記、工業簿記ともに1冊ずつでページ数の合計は約1100ページです。対して簿記1級は、商業簿記と会計学、工業簿記と原価計算でそれぞれ4冊ずつ、合計ページ数は2900ページになります。

簿記2級の3倍程度は、学習範囲が増えるイメージです。また各科目の難易度も当然上がっています。これだけ範囲が広いと暗記での対応は難しく、理屈を理解しながら学習を進めていく必要があります。

挫折する可能性が高い

試験範囲が広いので、参考書や問題の解答だけで全てを理解しながら進める事は難しいです。不明な点をインターネットや掲示板で調べる方法もありますが、論点の入り口で躓くと「何が分からないか、分からない」状態になり学習が行き詰ってしまいます。

こういった論点が複数あると、消化が不十分のまま放置することとなり、資格取得を挫折する可能性が高くなります。

モチベーションが続かない

知識を定着させ問題を解く力を養うには、地味な反復練習が欠かせません。簿記1級はこの学習期間が1年以上続くことになります。また試験は年2回なので、不合格だった場合は更に半年間の学習を継続しなければなりません。長期間、学び続けるモチベーションを維持する事は、独学ではなかなか難しいと考えます。

時間配分、戦略が必要

簿記1級受験者は、現役の経理職、公認会計士や税理士といった更なる上位資格を目指している人など、学習意欲や能力が高い人が多いです。試験は相対評価の面があり、強力なライバル達と競争し上位10%に入る必要があります。

他の受験者より一歩抜きんでるには、適切な時間配分、難解な問題が出題された場合の対応、解答する問題の見極め、最新の出題範囲の改定情報、次回試験の予想問題など合格に向けての戦略が重要となります。

上記の理由から、独学での合格はかなり困難だと考えます。独学は費用を最小限に抑えられるメリットがありますが、スクールの活用と比較して効率面ではかなり劣るので、学習範囲が広い1級ではお勧めできません。

AIに置き換わらない分野の知識

将来、経理の仕事が人工知能(AI)に置き換わってしまったら、簿記1級の知識はいらなくなるのでは?と考える人もいるでしょう。

1級の知識は、単なる計算スキルや統計スキルではなく、会計の本質を理解して経営者へ課題や解決策の提言を行うことや、イレギュラーな事態にも対応できるスキルです。AI化が進んでも、最後の判断は人間が行うので、知識が陳腐化することはありません。

現在、経理の仕事へは、RPA(ロボットによる業務自動化)の導入が進んでいます。昔は、システムによる自動化には、多くの費用と時間がかかり、また自動化した業務に変更があると都度メンテナンスが発生するなど費用対効果が合いませんでした。

安価でユーザー側で扱えるRPAが開発され、今後、データの集約や集計、分析といった定型業務は自動化が進むと考えられます。

経理管理者は、どの業務がRPA化できるのか判断したり、データ整理が不要になった時間を使って原価改善を進める仕組みづくりをしたりといった、より高度な業務が求められます。1級の知識は、RPAの推進、業務改善でも活躍します。

導入コストが高額なことから、経理業務のAI化はまだ少し先と想定されますが、AIは膨大なデータを学習し、傾向や答えを出すことに特徴があります。AIが導き出した答えが本当に正しいのか?は会計の知識がないと検証できません。AI導入後であっても、簿記1級の知識が不要となることはないと考えます。

簿記1級を生かした転職ならスキフル

スキフルは、経理を含む管理部門・士業事務所を専門に扱う転職エージェントです。簿記1級を生かして転職を考えるのであればスキフルの活用がお勧めです。

転職エージェントであるスキフルには、公認会計士、税理士、簿記1級取得者といった上級資格保有者を対象とした求人が多くあります。

原価部門責任者、製造業での管理会計経験者、課長候補者といった管理職クラスの求人があり、簿記1級の知識と実務経験を生かしてキャリアアップすることが出来ます。

経理の知識や実務経験はあっても、転職の面接で上手く伝えられるかは別の問題です。自己分析を行い、キャリアプランや志望動機を応募企業に合わせて作りこむ事は、転職を成功させるためにはとても重要です。

スキフルはコンサルティングサービスがあり、客観的なアドバイスを受けることが出来ます。また転職のケーススタディも豊富です。

管理職クラスの応募はあまり表に出ない場合もあり、またスキフルの求人サイトでも会社名非公開のケースがあります。転職やキャリアアップへ興味がある場合は、一度スキフルへ相談してみることをお勧めします。

Back Office Magazine
記事の作成者 ゆいと
大手製造業の現役サラリーマン/日商簿記1・2級

転職後、知識も経験もゼロで経理へ配属。全く仕事についていけず簿記の勉強を決意し、2年以上かけて1級まで合格。経理歴10年以上。
財務分析や経理の仕事について、実体験を交えながら分かりやすく発信中です。知識だけではなく、「会計の本質みたいなもの」が少しでも伝わると嬉しいです。

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